意味を喪う

「意味をあたえる」のfktack( http://fktack.hatenablog.jp/ )の小説です。不定期に更新します。

意味を喪う(7)

私と敦子はその後駐車場でおしゃべりをした。駐車場は建物の真下にあったので、全体が薄暗かった。午後四時頃である。敦子は白いマフラーを巻き、茶色いコートを羽織り、赤色の手袋をつけた。また忘れたが、季節は冬だったっけ? 読み返さなくてごめんなさい…

意味を喪う(6)

敦子が部屋にやってきた。敦子とは中学の頃の同級生である。部屋とは関越自動車道の、東松山インターの近くのラブホテル部屋だった。私はデリバリーヘルスで敦子を指名した。もちろん敦子という名前ではなかった。写真も違う。そのお店は時間三分前まで射精O…

意味を喪う(5)

書いている。書くというのは読むと同義であり、小説とは誰よりも書いた本人がいちばん読んでいる、と言ったのは保坂和志だった。だから私も読んでいる。書いていると言ったのは嘘だ。第4回まで更新した分を読み返したが、まるでダメだった。ダメというと何か…

意味を喪う(4)

「どのブログ?」 と、私は反射的に志村に訊いた。「棚尾さんのブログ」と言ってきたからである。私はブログはひとつしか持っていない。 「「意味を喪う」でしたっけ? 文字ばっかりのやつです。毎日書いているやつです」 「棚尾なんてどこにも書いてないだ…

意味を喪う(3)

小説を書く、と風呂敷を広げてはみたもののなんやかんやで放置していたらすっかりとっかかりをなくしてしまった。いつでも書き出せるようにと携帯を常に持ち歩いていたが、小説を書くために持ち歩いているわけでもなかった。携帯は春から二台に増えた。会社…

意味を喪う(2)

私が五歳か六歳のとき、祖母が私にお話のカセットをプレゼントしてくれた。そのときは祖母の妹も一緒で、いつも二人はセットでやってきた。祖父はまだ生きていたが、私の家にやってくることは滅多になかった。祖父は家で本ばかり読んでいた。本を読まないと…

意味を喪う(1)

仕事については色々言いたいこともあるが、生きている限り明日は続いていく。私は人間というものは死を自分で認識できないというスタンスなので、今のところは、永久に明日は続くものととらえている。とにかく夢も希望もない人は生きづらい世の中だと感じる…

小説「余生」の連載が終わりました

私はこの小説にかんしては、特に日付も残していないので、一体いつからいつまで書いたのかはっきりと覚えていないが、と書くと他のは残していてこれだけが例外という印象を読者にあたえるかもしれないが、だいたい私はそういうのに無頓着なのです。だいたい…

余生(61) - (65)※最終回

※前回 余生(56)-(60) - 余生 私と部長は大学を卒業してからも、こうしてたまに会って、酒を飲みながら話をする関係を続けた。それは10年以上に及ぶが、その間に部長は3回、私は4回職を変えた。部長は今は都内に住み、都内の会社に勤めていた。営業職であ…

余生(65)※最終回

※前回 余生(64) - 余生 私は顧問の教師が頻繁に体罰を行う教師だったので、あまり部活には顔を出さなかった。顧問はスマートで若く、顔も美形でマネキンのような顔をしていたので、美形だからよく人を殴るのだろうと、当時私は思った。私も1度職員室で、ユ…

余生(64)

※前回 余生(63) - 余生 酔っ払いといえば、私が組合で働き始めたとき、それは前に述べたとおり建設業者の組合で、私はそこに勤める直前まで、とあるマンツーマンの塾にアルバイトとして勤めていた。3月に受け持っていた生徒が第一志望の高校に受かり、私は…

余生(63)

※前回 余生(62) - 余生 少ししてから整体師の人が来て 「スタッフの人ばっくれちゃったみたいっすね」 と言い、その口調は接骨院での時よりもフランクであった。話によると、雨が強かったりすると、スタッフが勝手に店じまいにすることは、よくあることのよ…

余生(62)

※前回 余生(61) - 余生 私は部長がメニューを眺めている隙に携帯の画面を開き、最近のメールをチェックしてみることにした。受信ボックスには業者からのメールが数多く入っていたが、そのうちに部長のメールが見つかり、そこによれば、今は教師と付き合い始…

余生(61)

※前回 余生(60) - 余生 私と部長は大学を卒業してからも、こうしてたまに会って、酒を飲みながら話をする関係を続けた。それは10年以上に及ぶが、その間に部長は3回、私は4回職を変えた。部長は今は都内に住み、都内の会社に勤めていた。営業職であるが…

余生(56) - (60)

※前回 余生(51)-(55) - 余生 やがて研修の最終日の帰り、 「どこかで食事でも」 と私がDを誘うと、あっさり断られた。 「奥さんと娘さんが待っているんじゃないですか?」 「待ってないよ。もう食べてるって。下手すりゃ寝てる」 本社から私の家までは2時…

余生(60)

※前回 余生(59) - 余生 旅行先は山中湖であり、途中で釣り堀に寄って、ニジマスとイワナを釣った。それをバンガローまで持って行き、バンガローの庭先でバーベキューをする予定であった。途中で雨が降ってきて、それは強い雨だったので釣り堀は早めに切り上…

余生(59)

※前回 余生(58) - 余生 終バスが10時57分だとしたら、10時50分まで粘ってバス停まで走れば、話したいことも十分話せるだろう。そうでないのなら、たとえば終バスが10時3分なら、「バスの時間があるから」と無理に話を切り上げてしまうのも手だ。…

余生(58)

※前回 余生(57) - 余生 自転車で来る人の自転車は、後輪の泥除けの部分にシールが貼ってある。銀の光沢のあるシールには、任意のアルファベットが一文字と、そのあとに2桁の番号が印刷されている。どうやらこのシールが貼ってなければ、駅の駐輪場には置け…

余生(57)

※前回 余生(56) - 余生 勘弁してよ、としゃがれた声で言いながら、Jさんは私の二の腕を掴んで来て、私はオーバーな動きでそれをほどいた。中で作業している人に、サボっていると思われても癪なので、早く雑巾を干し終えて中に入りたかった。しかしJさんは…

余生(56)

※前回 余生(55) - 余生 やがて研修の最終日の帰り、 「どこかで食事でも」 と私がDを誘うと、あっさり断られた。 「奥さんと娘さんが待っているんじゃないですか?」 「待ってないよ。もう食べてるって。下手すりゃ寝てる」 本社から私の家までは2時間かか…

余生(51) - (55)

※前回 余生(46)-(50) - 余生 ところで私はこの芸能人の水泳大会の番組を、父親と一緒に観ていた。その時母は台所で洗い物をしており、妹と弟はそこら辺にいたのかもしれないが、忘れてしまった。私は父のことばかり意識していた。 私と父は居間でテレビを観…

余生(55)

※前回 余生(54) - 余生 Dは、私よりも9歳下の女であるが、私と同じ年に入社していた。話す機会はほとんどなかったが、1度だけ本社で行われた新入社員研修で一緒になったときがあり、その時は頻繁に会話をした。Dは細身で髪は短く、いつも黒のパンツを着…

余生(54)

※前回 余生(53) - 余生 私の部署へ飛ばされる第一候補は、営業のJさんではないかと、私たちは予想した。Jさんは営業所では最も年長の50代の男で、痩せ型で、ワイシャツの選び方にもセンスがあったが、仕事の方はイマイチであるとの噂であった。その証拠…

余生(53)

※前回 余生(52) - 余生 ノグチはせっかちで早とちりをする性格であったが、小気味がよく熱心であるので、私たちは事務所で上司に 「社員にすることはできないのか?」 と度々相談をした。私たちの会社は少し前に社長が代替わりをし、若い社長になったせいか…

余生(52)

※前回 余生(51) - 余生 現在では視聴者の苦情が多数寄せられたのか、世の中の嗜好が大きく変わったせいなのか、水泳大会が放送されることはなくなった。それに伴って家族の中での父親の役割、ポジションも大きく変わったのである。私は先日、河合隼雄の「心…

余生(51)

※前回 余生(50) - 余生 ところで私はこの芸能人の水泳大会の番組を、父親と一緒に観ていた。その時母は台所で洗い物をしており、妹と弟はそこら辺にいたのかもしれないが、忘れてしまった。私は父のことばかり意識していた。 私と父は居間でテレビを観ていた…

余生(46) - (50)

※前回 余生(41)-(45) - 余生 すると、私は助手席の後ろ側のドアを開けたのだが、そこにはEさんが座っていて、 「どうも」 と挨拶をしながらEさんは奥へずれてくれた。Eさんの動きは極めて緩慢であり、運転席の後ろにおさまると、頭をシートににぴったりつ…

余生(50)

※前回 余生(49) - 余生 しかしヤクザにしてみても、このまま空手で帰るわけにはいかないので、金をむしり取ることは無理でも、何らかの言質をとって帰らなければ、こちらもこちらで上司に大目玉を食らう。というわけで車の外から拡声器で声をかけたわけであ…

余生(49)

※前回 余生(48) - 余生 私がオカダさんの声だと思っていたものは、実は車の外から聞こえてきたもので、やがてその声は「とまれ」と発していることがわかり、オカダさんの奥さんは車を停めて、サイドブレーキを引く音が車内に響いた。私は奥さんが車を停めた…

余生(48)

※前回 余生(47) - 余生 私はEさんを探し続けたが見つからないので、トイレにでも行ったのだろうと決め付け、集会場は数年前に建て替えたばかりなので、トイレもまだまだきれいで、男子トイレと女子トイレの間には身障者トイレもあった。私はネモちゃんがま…