意味を喪う

「意味をあたえる」のfktack( http://fktack.hatenablog.jp/ )の小説です。不定期に更新します。

2014/1/23

 駄菓子屋で弟にコーラを買って飲ませたら、弟は腹が痛いと訴えた。そこの駄菓子屋は、道から少し引っ込んだところに建物があり、道との境界にはレンガで作られた植え込みがあった。帰り道では、弟の左足が自転車の後輪に巻き込まれてしまい、私は前を向いたままなので、気づかず、多少ペダルが重い感じがしたので立ち漕ぎにしたら弟の叫び声がしたので止まった。見てみると弟の左足が巻き込まれており、とても痛そうであったが、私まで痛がっても仕方ないので車輪を逆に回して足を取り出すと、かすり傷程度で済んだが、弟は泣き続けた。

ここまで書いて思い出したが、その1年ほど前には弟は交通事故に遭っており、友達の家に遊びに行く途中で道路に飛び出して車に轢かれ、左足首にタイヤが乗り上げて骨折した。その傷跡については大木の太い根が地面から盛り上がっているようなのと同じ外見で、色はピンクで痛々しい。この傷跡については整形をしないと消すことができないと、主治医は話し、当時私は整形という言葉は知っていたが、それは顔に施すものだとばかり思っていたので、違和感があった。しかし弟にある日そのことを話すと、この傷跡を友達に見せると驚くからこのままにしとくと言っていたので、今も治しておらず、弟のトレードマークのようになった。傷跡はもうずっと見ていない。

 骨折したばかりの弟は左足にギブスをはめ、しばらく歩くことができなかった。ギブスはチェック柄の巾着袋がはめられた。、弟は私が家に帰ると匍匐前進で玄関まで迎えてくれたので、私はゾンビがきたような錯覚をおぼえた。

 弟の事故は4月にあり、私は小学5年になったばかりで、4年の時はいじめられていたが、その人たちとは違うクラスになれたので、私は浮き浮きしていた。私がその当時気がかりだったのは、私は毎月コミックボンボンという漫画雑誌を購読していたのだが、そこで先着500名様へ漏れなくプレゼントするという応募企画があった。景品は金メッキされた武者ガンダムで、私は当時ガンダムには目がなかったので大急ぎでハガキを書いて素早く投函した。しかし雑誌の発売は毎月15日であったのに、私が手にしたのは2日経過した17日だった。さらに郵便の日数が1日か2日はかかるので、先着500名様に入るのはもはや絶望的であった。しかし私は希望は捨てず、だいたい郵便の日数で言えば誰もが同じ条件で横一線なのだからカウントしなくてよく、そうなると私は2日遅れに過ぎない。2日くらいなら、480番台くらいには向こうに届いて、間に合う可能性もある。私が前向きな気持ちを維持出来たのは、これが抽選で当選者を決めるのではなく、先着順だったからである。というのは、私は幼稚園の年長組から母に毎月1冊雑誌を買ってもらっていたが、これは母の教育方針なのか向こうから持ちかけられた話だった。そしてそこにも玩具のプレゼントページがあり、私の欲しい玩具は3名様にプレゼント、と記載されていたのでなかなかの高額商品だったのだろうが、母にハガキをもらって投函した後はすっかり当たった気になって有頂天になった。私は私宛の小包がいつ届くのかと心待ちにした。当選者発表は次の次の号であり、私は白黒ページの当選者欄に、自分の名前がなかったので大変がっかりした。それ以来抽選という言葉自体が嫌になったので、今回の先着500名様は、私にとって大変ありがたく、とてもフェアなやり方に思えた。

 私は結局その先着500名様には入れなかったわけだが、弟が事故に遭った日は4月20日には、まだ当たる気がして家に帰るたびにポストをチェックした。なぜ私がこんなにもはっきりと日にちをおぼえているかと言えば、この日をおぼえておこうと決めたからである。年まではおぼえていないが、小学5年の時、とおぼえておけば、後から年数は追えるのでおぼえなかったのである。

 ポストが空であることを確認してから家に入ると、台所には父がいた。父は私に弟の事故のことを教えてくれた。父の立っているすぐ後ろには電子レンジがあり、電子レンジは高さ1メートルほどの物入れの上に置かれているが、物入れの側面にはシールを貼っても良い決まりとなっていたので、幼い頃私は、キン肉マン等のシールをたくさん貼った。

(続く)

第1回


2013/12/11 - 西門