意味を喪う

「意味をあたえる」のfktack( http://fktack.hatenablog.jp/ )の小説です。不定期に更新します。

余生(1)

 その朝私は久しぶりに母が死ぬ夢を見た。しかし夢だったので、やがて忘れてしまったので、幼い頃に見た方ので代用すると、母は風呂場で死んだ。風呂の排水溝から毒ガスが発生し、昼間だったので風呂桶に水は張っていなくて母は風呂掃除をしているところだった。私は洗面所から母がガスを吸って死にゆくところを見ていて、母は私に風呂に入ってくるなと言い、私も行ったら死ぬことがわかっていたので、その場に泣きながら突っ立っていた。私の足元には足拭き用のバスタオルが敷いてあり、それはミッキーマウスのバスタオルだった。ミッキーマウスは私の足の裏の汗を吸い込んだ。

 毒ガスを吸った母の体は、やがて、徐々に縮んでいき、最終的には手の平大の十字架になった。十字架にはほつれた紐が取り付けられていて、紐はシャワーのホルダー部分にかけられた。十字架の色は焼け焦げた肉の色をしていた。

 その夢を見たとき私は幼く、まだ幼稚園くらいの年齢で泣きながら起きたが、再びその夢を見るのが怖かったので、それからは一切の夢を見ないようにした。しかしたまには夢を見てしまうこともあったものの、母が死ぬ夢はそれ以来見ることはなかったので、私は今朝、久しぶりに母が死ぬ夢を見た。私は夢の中で、これは夢であるとある程度は自覚していたが、夢が覚めた後の現実で、母が生きているか死んでいるかについては確信がなかった。もしすでに死んでいたら、母を偲ぶ気持ちがこういう夢を見せるのだろうと夢の中で解釈をした。やがて夢は少しずつ覚醒へと向かって行き、そのうちにもしかしたら生きている可能性が高いと思えるようになって、生死が五分五分になり、目が覚めてまだ生きていると確信した。