意味を喪う

「意味をあたえる」のfktack( http://fktack.hatenablog.jp/ )の小説です。不定期に更新します。

余生(4)

※前回

余生(3) - 余生

 

 オレンジ色の壁の、業務用スーパーの自動ドアをくぐると、そびえ立つように缶ビールのダンボールがメーカーごとに積みあげられており、私はそのダンボールのにおいを嗅いでいるうちに尿意をもよおした。この業務用スーパーは以前はゲームセンターであり、ビールのコーナーは元々UFOキャッチャーの台が置かれ、トイレはプリクラの台の裏側にあった。妻にトイレに行くと言ったら、「いってらっしゃい」と言われた。

 

 トイレのドアを開けると、そこは公民館の玄関になっていて、コンクリートの上にすのこがL字型に敷かれていた。右側には下駄箱があり、下駄箱には黒い革靴がびっしり詰まっている。私は1番下の段の手前側に自分のスニーカーを入れた。スニーカーは白のアディダス製で黄緑色のラインが引かれていて、これなら酔っ払っても間違える心配はないだろうと思った。下駄箱の上にはカレンダーと、暴力団追放のポスターが貼られていた。カレンダーには13日の部分にマジックで丸が付けられている。今日は6日なので13日はまだ先だ。カレンダーは、最初に目に入ったときから、違和感があった。よく見ると日にちが飛び飛びになっており、13日の隣は21日でその先は34となっていた。34の次は55でその次は89だった。数字はどんどん大きくなっていき、まったくカレンダーには見えなくなったが、私はそれは特殊な職業の人用のカレンダーではないかと想像した。数字が31よりも大きくなるのは、サイクルが1ヶ月よりも長いからだ。私はそうやって無理に納得することができたが、ネモちゃんに質問されたらどうしようかと、私は考えた。ネモちゃんは最近になって100までの数字を覚えた。たまに56や66を飛ばすが、私が指摘すると「飛ばしてない」と怒った。私たちは風呂に入っているときに、100まで数えた。壁面のタイルには、100以上のの水滴がついていた。