意味を喪う

「意味をあたえる」のfktack( http://fktack.hatenablog.jp/ )の小説です。不定期に更新します。

余生(13)

※前回

余生(12) - 余生

 

 私は反射的に

「じゃあ休んじゃいなよ」

 と言い、私はまだ布団の中にいたので、まるで寝ぼけて適当なことを言っているような感じだったが、私の頭はさえていた。妻はすぐに

「なんで?行きなよ、明日休みでしょ?」

 と怒鳴り声を上げ、妻はなんでもすぐに怒鳴り声を上げる女だった。私は彼女を挑発する意味もこめて、娘に休めと言っている節もある。

「なにかあったの? 誰かにいじわるされた?」

 私は一応父親の風を装って、質問をしてみたが、別に理由がなんであれ、休むと言うのなら休ませた方がいいし、このまま学校へ行かなくなってくれた方が良いくらいに思っていた。娘が言うには前の席の男の子が、虫を捕まえて自分の顔を近づけてくるのが不快だからと言い、けれど隣の席の女の子とは仲がいいので、行きたい気持ちもあるので葛藤していると言った。妻は今日は心電図の検査がある日なのに、休んだら困ると言い、私は1年生に不整脈の疑いなんてないのだから、わざわざ検査なんて受ける必要はないのだから、改めて妻の的外れぶりにうんざりさた。しかし妻が言うには検査を休んだら、後日市内の総合病院に改めて受けに行かなければならないよと言い、確かにそれは面倒な話だった。私の住んでいる市内には3つの大きな病院があり、そのうちのひとつは私の祖母が死んだ病院で、祖母は亡くなる直前には見舞いに来た私の父の顔も判別できなくなっていた。祖母とは父方の祖母のことである。