余生(30)
※前回
私は去年の夏に地区の野球場での練習のときのことを思い出した。私は肩と腰が痛いと言って、初っ端のキャッチボールから練習を辞退して日陰のベンチに座っていた。選手ではない年寄りの役員たちは、球拾いを買って出て外野へ行き、球が飛んでこなくて暇になると、その辺の草むしりを始めた。その野球場は昔からあって、私の小学校時代の通学路の途中にあり、使われなくなった得点板には錆が浮いていた。
最後の試合練習になると人数あわせで全員が駆り出され、そうすると体育委員のひとりは奥さんも選手であったため、3人の男の子を見る人がいなくなった。私が田んぼへザリガニ獲りに行くのにつきあったことは既に述べた。
ようやく彼らが最初にザリガニを発見した用水路にたどり着き、しかし私たちは釣竿の類は全く持っておらず、かろうじて餌だけは、さきイカをいくつか用意していた。昨日ちょうど納涼祭が行われ、社務所で行われた酒盛りのツマミの余りを、キクチさんがクーラーボックスに入れて持ってきていたのだ。私は納涼祭には参加していない。
私は長めの細い草を何本か引きちぎってそれを糸に見たて、餌をくくりつけて子供達に渡した。目を凝らすとザリガニは用水路の中にうようよいて、ザリガニの目の前に餌がくるように糸を垂らすと、案外簡単に釣れた。こんなあっさり釣れるとは思ってなかったので私は驚いた。ザリガニは畦道の真ん中でハサミを目一杯広げて私たちを威嚇し、しばらくはその様子を楽しんだが、やがてそのザリガニは長男のものとなり、あと2匹釣らなければならない雰囲気となった。私は最初の一匹があっけなく釣れたから、いくらでと釣れると楽観したが、2匹目以降は釣り上げる途中で糸が切れたり、水の中で餌がほどけたりしてなかなかうまくいかない。落ちた餌をゲットしたザリガニは、新たに餌を垂らしても、もうそれには見向きもしない。私は段々と釣り上げることに夢中になって、身を乗り出して水路を覗き込むようになった。しかし私は心の中で腰の状態に気をかけていた。