意味を喪う

「意味をあたえる」のfktack( http://fktack.hatenablog.jp/ )の小説です。不定期に更新します。

余生(32)

※前回

余生(31) - 余生

 

私が就職した後も、組合の車でその店を訪れたりもした。組合の車の天井には、ひび割れた拡声器が取り付けられていた。店の駐車場は狭く、車3台停めるのがやっとのひろさで、さらにはすぐに通りに面していたので、車を後ろ向きで入れるのに苦労をした。花屋の女の子は当時大学生で、横浜に彼氏がいると言っていた。同棲をしたいと思っているが、親が反対をしている。

「おばあちゃんはいいって言ってくれてるんだけど」

 私の記憶はそこで途切れ、やがて私は結婚をして、花屋は接骨院に変わった。結婚したとき志津は5歳だった。腰に気を遣いながらゆっくり引き戸を開けると(接骨院は建物自体は花屋のころと変わっていないので、私は迷うことなく扉を開けられた)若い短髪の男の人が出迎えてくれた。私はてっきり若い人なので、アルバイトかと思いながら、最初の問診票を記入していたが、その人が主たる整体師であった。童顔なのでアルバイトと勘違いしたのだった。それからカウンターの奥に入ってうつ伏せで寝かされ、初日は背中を冷やされて、翌日から電気を流してもらい、その後マッサージをして湿布を貼ってもらってから帰った。しかし、私は家に帰ったらすぐ風呂に入るので、湿布はその後に貼りたいと言うと、袋に入れて渡してくれた。袋は家でどんどんたまっていった。

 何日か過ぎての帰りに会計をする際、ある時整体師は私にA4の用紙を見せてきて、
「これだと労災になっちゃいますけど、大丈夫ですか?」

 ときいてきた。

 用紙には鉛筆書きで〈午後5時頃、会社作業場(熊谷市◯◯1236‐4)にて、およそ20キロの荷物を持ち上げた際に負傷〉と書かれていた。これは初日に私が書いた問診票を元に作成された文章であったが、それを見て私はあわてて

「その前に家でやってます。それが最初にあって、会社で悪化したから、家。仕事中じゃないですね」

 と訂正した。