意味を喪う

「意味をあたえる」のfktack( http://fktack.hatenablog.jp/ )の小説です。不定期に更新します。

余生(38)

※前回

余生(37) - 余生

 

 結局、学校を休みたいのなら志津本人が連絡をする、ということで話はまとまった。志津の担任は、入学してすぐに自分の携帯番号を黒板に書き、何か悩みがあれば気軽に電話してほしいと言っていた。「黒板に書き」というのは私の勝手な想像で、本当は口頭で伝えただけかもしれない。志津は早足で部屋を出て行った。まだ7時前だったが、志津の担任はソフトボール部の顧問で、朝練習に参加していれば、もう学校にいる可能性もある。自身も学生時代はキャッチャーをやっていてガタイが良く、髪を短く刈り上げた女性の教師だった。入学式で初めて見たとき、私は自衛隊が担任になったと面白がった。自衛隊の担当科目は数学であった。

 それから私は30分くらい二度寝をし、起きてからネモちゃんを起こし、ネモちゃんは昨晩も遅くまでYouTubeを見ていたので寝起きは悪く、抱きかかえながら1階に降りると、台所では義母がNHKの朝のニュースを見ていたので私たちが挨拶をすると、そろそろ腕の筋肉が疲れてきたのでリビングまで急いで行って、ネモちゃんをソファの上にどさりと落とした。ソファの上には、志津が昨日もらってきた学級通信と妻が昨晩記入した生協の用紙が置いてあったので、ネモちゃんの背中がぐしゃりと音を立てた。私はネモちゃんの目を覚ますため、素早くテレビの主電源を入れ、チャンネルをEテレに変えた。すでに志津の姿はなく、流しの前で水筒にお茶を入れている妻に聞いたら

「ゆっくり休んで、だって」

 と教えてくれた。リビングの上が志津の部屋となっていたが、物音はなにもしなかった。

 それから私は仕事に行き、妻は仕事の気分じゃないと言ってパートを休み、6時半に私が家に帰ると、5月の半ばだったので、辺りはまだ明るく、国道から左に曲がって坂を上がると私の家はあるのだが、庭の駐車場が見えてくると、そこには巨大な、戦車のような黒いRV車が停まっていた。通常なら3台まで車をおさめることができる駐車場だったが、私は躊躇して路肩に車を停めた。玄関先では義父が下着姿で煙草をふかしており

「先生来てら」

 と教えてくれた。