意味を喪う

「意味をあたえる」のfktack( http://fktack.hatenablog.jp/ )の小説です。不定期に更新します。

余生(46)

※前回

余生(45) - 余生

 

すると、私は助手席の後ろ側のドアを開けたのだが、そこにはEさんが座っていて、

「どうも」

 と挨拶をしながらEさんは奥へずれてくれた。Eさんの動きは極めて緩慢であり、運転席の後ろにおさまると、頭をシートににぴったりつけて目を瞑り、どうやらアルコールはそれほど飲めないタイプらしいと私は判断した。慰労会が始まって1時間くらい経ってから、Eさんはやってきた。犬の散歩の後にシャワーを浴びたのか、グレーのTシャツとジーンズに着替えていた。慰労会にこなければ、寝巻きに着替えたのかもしれない。Eさんは私が声をかけてやってきたので、私は右隣の座布団をあけてもらっていて、Eさんはそこに座った。私たちは世間話をしたが、すぐに話すことがなくなってしまった。私は

「今日は奥さんは見えないの?」

 と馴れ馴れしくきいてみた。Eさんは笑ってごまかすだけなので、話はそれ以上続かなかった。ところで私の反対側の左隣の席には、体育委員の齋藤さんがいて、私は齋藤さんにも話を振ろうと思い
「次の人、見つかりました?」
 と聞いてみた。齋藤さんとは、ソフトボール大会の練習の時に3人の子供を連れてきて、その子供の面倒を見る人が途中からいなくなったので、仕方なく私がザリガニ釣りに連れて行った子供達の親である。その時の話をしたら、ザリガニについてはやはり1匹しかいなかったので、兄弟で取り合ってるうちにハサミがもげ、そうなると兄弟たちの興味は一気に覚めて放置していたらだいぶ弱ってきたので、奥さんが流しの三角コーナーに捨ててしまった。と、齋藤さんはスルメを噛みながら教えてくれた。私はやはり男の子の親は違うなあと感心した。一方ザリガニには気の毒なことをしたと思い、やはりあの時3匹釣ってひとり1匹にするか、そうでないなら川へ逃がして0匹としても良かったのかもしれないと思った。しかし私は子供達の親ではなかったから、やはり釣ったザリガニを逃がせ、と強くは言えない。