意味を喪う

「意味をあたえる」のfktack( http://fktack.hatenablog.jp/ )の小説です。不定期に更新します。

余生(50)

※前回

余生(49) - 余生

 

 しかしヤクザにしてみても、このまま空手で帰るわけにはいかないので、金をむしり取ることは無理でも、何らかの言質をとって帰らなければ、こちらもこちらで上司に大目玉を食らう。というわけで車の外から拡声器で声をかけたわけである。

 オカダさんの奥さんが運転席の窓を下ろし、しかしそこを覗き込んできた顔は警察官のものであった。警察官は紺色の帽子をかぶっていて、40代くらいに見えた。どうやら、オカダさんの奥さんは一時停止の表示を無視してしまったらしい。車はちょうどT字路を曲がってきたところで、それまでは雑木林と竹藪の間を走ってきたが、そこから景色が開け右手には畑が広がり、左手には土手があってその向こうは沼になっている。警察はどうやらこの土手の影から車がラインを越えないかどうかを見張っていたようだ。土手の上には沼に入らないように注意する看板が立てられ、子供の恐怖心をあおるために、そこには河童の絵が書かれていた。

 オカダさんの奥さんは警察に車から降りるように言われたので降り、すぐ後ろにつけられたパトカーの後部座席に連れて行かれた。私はその様子を眺めていたが、オカダさんの奥さんはとても太っていた。さらには私よりも短髪であり黒いTシャツは背中に汗の染みができており、下手をしたらプロレスの悪役レスラーのようにも見えた。私が小学生の頃には、芸能人の水泳大会がテレビで放送されていて、そこでの最後の競技は騎馬戦であったが、出場するのは女性ばかりだった。その理由はある程度時間が経てばわかるのだが、出場者の中には悪役女レスラーもいて、次々に相手チームのビキニを剥ぎ取っていく。勝利条件は帽子を取ることだから、ビキニを取ることには何の意味もないが、これは視聴者へ対するサービスであると、私は子供ながらに気づいた。ビキニを取られれば当然乳房が露わとなり、私はまだ性欲を自覚できる年齢ではなかったが、興奮し、勃起もした。しかし、ビキニを取られる女性芸能人は、決まって私の知らない女ばかりであり、売れている人は、対象外なのである。

 その時に活躍していた女性レスラーに、オカダさんの奥さんが似ているという話であった。