意味を喪う

「意味をあたえる」のfktack( http://fktack.hatenablog.jp/ )の小説です。不定期に更新します。

余生(54)

※前回

余生(53) - 余生

 

 私の部署へ飛ばされる第一候補は、営業のJさんではないかと、私たちは予想した。Jさんは営業所では最も年長の50代の男で、痩せ型で、ワイシャツの選び方にもセンスがあったが、仕事の方はイマイチであるとの噂であった。その証拠として、Jさんは私やH・Kくんとも仲が良く、仲が良いということは、いつまでも外回りに出ないで、私たちと談笑するからである。他の営業は8時半には自分のデスクを拭き終え、外へ出て行く。営業には1人1枚の雑巾が支給され、朝1番に自分の机を掃除する決まりとなっていた。たまに私が早く会社に着くと、その姿を目撃することができた。

 Jさんが本当に営業所の最年長であるかは、実のところ私にはわからない。営業所の所長も同じくらいの年齢の外見で、年功序列でいけば所長が最年長であるが、以前私が営業所のDという営業の送別会に、声をかけられて参加したときには、酔った所長がJさんに

「お前が辞めてから、わたしの番ですからね」

 と絡んでいるのを聞いてから、私はJさんが最年長であると認識した。しかし今思うと、これは定年の話ではなく、Jさんを追い出すという意味だったのかもしれない。所長は「自分は典型的A」と自称する男であり、Aとは血液型のことだった。

 営業所の送別会は、駅前のチェーンの居酒屋で行われ、駅前と言ってもそれは間違いなく会社からは最寄りの駅ではあるが、歩けば20分の距離がある。会の開始は19時からで、私たちは普段は定時になれば、速やかにタイムカードを押して帰途につくが、早く出たところで駅前にはスーパーがあるくらいで時間も潰せないので、6時半まで事務所で待機した。上司はノートパソコンでソリティアに興じていた。参加者は上司と私とH・Kくんだけで、H・Kくんの車に乗せてもらって現地まで行く約束をしていた。他の人は理由をつけて早々と不参加の意思を示した。不参加の理由とは、送別会の対象者であるDが嫌いだからという、わかりやすいものであった。