意味を喪う

「意味をあたえる」のfktack( http://fktack.hatenablog.jp/ )の小説です。不定期に更新します。

余生(62)

※前回

余生(61) - 余生

 

 私は部長がメニューを眺めている隙に携帯の画面を開き、最近のメールをチェックしてみることにした。受信ボックスには業者からのメールが数多く入っていたが、そのうちに部長のメールが見つかり、そこによれば、今は教師と付き合い始めたと出ていて、私はそれはネモちゃんの担任かもしれないと思った。

 ネモちゃんの担任は25歳か35歳の女教師であるから、35歳なら38歳の部長とは釣り合いが取れている。私が部長ならは25歳でも歓迎だが、部長は自分よりも若すぎると、話が合わなくて駄目らしい。

 しかしその後、部長の口から付き合い始めた教師についての話が出ることはなかった。代わりに部長は最近では甥っ子と休みの日には遊びに行くようになり、私に
「子供が喜ぶから一度鉄道博物館に遊びに行くといいよ」

 とアドバイスをくれた。しかし私の家は2人とも女の子なので、妻も女なのでほとんど鉄道には興味がなく、どこか出かけるにしても車で行くばかりなので、あまり楽しめそうになかった。私も鉄道には全く興味がなかった。

 30歳を過ぎてほとんど趣味を持たない私は、何か趣味を持った方がいいと考えていた。今の仕事に就いて腰を痛めた私は、父親の紹介で行った接骨院の整体師に、

「フットサルでもやりません?」

 と誘われた。私は子供の頃はJリーグを熱心に見ていてサッカーは好きだったので、すぐに友人に声をかけた。さらにたまたま実家に帰ったら弟がいたので、弟にも声をかけたらやるというので、それなら友達も連れてこいと言い、なんとか1チームの人数である5人を揃える目処がついた。そして整体師の人(私よりも5歳若い)にメールをしようとしたら、アドレスを聞いてなかったので手紙を書いて父に渡してもらった。その頃はもう私の腰は完治していた。日程を決め、私はフットサルはやったことがなかったので、その日までにシューズを買いに行ったりしたが、いざ当日になると、午後になって東日本大震災が起きて、結局中止となってしまった。しかし当初私は大地震と言っても、私の家の方は揺れただけで、被害も大したことはなく(実家の瓦が落ちる程度)やるもんだと私は思っていたら、私の友達の1人が「母親が行かないでくれと言うからいけない」とメールしてきて、私は人数が揃うか不安になった。フットサル場に行ってみると、照明は全て落とされ真っ暗になっていた。