2013/12/24
今となってはそこでどんなレッスンが行われていたか、思い出すことはできないが、ごくたまに私たちは一般用の深いゾーンへ進出することがあった。それは2種類あって、まずは普通よりもずっと大きいビート板を筏に見たて、そこに子供たちがしがみついて、講師が引っ張っていくパターン。もうひとつはプールのへりにしがみついて、蟹のように横へ少しずつ進んでいくパターンだった。当時から小心者であった私は、この手を離したら足は決してつかず、溺れることは必至なので、プールの水で濡れていた手のひらは汗でも濡れ、手すりがぬるぬるして緊張した。見上げると天井は高く、2階分の高さがあるので、入口側の壁の上方面はガラス張りになっていて、その中は階段になって階段はベンチとしても使用できるようにプラスチックの座面がひかれ、保護者が座ってプールを眺めるようにできている。私はそのガラス窓を頻繁に見上げ、常に母親がいるかどうかをチェックしたが、いないこともあり、いるときもとても遠かった。いない時母親は、トイレに行っているか、その辺をぶらぶら歩いているのだった。その観覧コーナーの奥はロビーになっており、壁際には自動販売機が設置されていたが、売られている品目の中にはカロリーメイトがあり、カロリーメイトは当時から4本で200円だった。私は自動販売機と言えば、ジュースが売っているものしか見たことがなかったので、この自動販売機に初見から大変興味を抱き、何度も母親に買ってくれるようせがんだが、ついに買ってくれることはなかった。あるいは1度くらい買ってもらって味をしめていたのがしれないが、おぼえておらず、当時の私に200円という金額は大変高価であるという印象が残った。100円であれば子供の私でも許されるというイメージがあり、おそらく母親の中でも、はっきりとした線引きがされていたのではないだろうか。
その感覚は今の私にも引き継がれ、今でも「200円」という価格表示を見ると、商品内容にかかわらず、ちょっとやそっとでは買えない金額に錯覚し、5000円などよりも高価に感じる。それは後から導入された消費税のせいで、つまり身の回りで200円等の0が並ぶ商品がほとんどなくなってしまい、私の感覚が上書きされなかったためだ。現在のお菓子コーナーでは195円、145円、495円などざっと見ただけでもバリエーションが豊富で、相場というものが全くつかめずにお菓子コーナーで私が立ち尽くしていると、見知った顔があり、私は反射的にその顔を見なかったふりをして立ち去ろうかと思った。しかしすぐ後に気まずい間柄の相手ではないことがわかり、その相手とは、少し前まで通っていた美容院の美容師であり、相手もまさかこんな場所で会うとは思わなかったと、大変驚いていた。
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第1回