2013/12/25
美容師には男の子が1人いて、2人目を妊娠して産休に入ったところで私はその美容院へ通うことをやめた。それはもう1年くらい前の話だったが、その後もしばらくは美容院からメールが届き、そのメールとは時候の挨拶に始まり、そろそろスタイルも崩れる頃ですがどうですか? と書かれその下段には担当美容師の、現時点での予約可能な日にちと時間が携帯画面に羅列された。しかし当の美容師は産休に入っているので、予約可能な日にちなど1日もなく、そこには空白が表示されるのみであった。つまりこの来店を催促するメールとは、スケジュールに沿ってメール会員に自動的に送信されるもので、実際システムを構築するのは外部の専門家だから、こういうちぐはぐなことも起こってしまうのだ。メールを見た私は特に不愉快な気分にはならなかったが、かと言ってわざわざそのことを教えてあげるほど親切ではなかったので放置した。
もし電話をするとしても、どういった内容の不具合なのかを、相手に理解させるだけでも骨が折れるだろう。ましてや相手は気心が知れた担当美容師ではないのだ。気心知れた担当美容師は産休中だった。電話の相手は一応は「ご迷惑をおかけした」と、謝罪の意を示すだろうが、実際はその人がシステムを構築したわけではないので、心の中では自分は悪くないと思っているのである。その人は周りの美容師からは「先生」と呼ばれる、院内唯一の男性美容師だった。
私は4、5年前まで都内のベンチャー企業に勤めていたことがあり、勤めていた期間はほんの数ヶ月にすぎなかったが、先ほど自動送信のメールのくだりを書きながら、当時のことを思い出した。その会社では携帯サイトのシステム保守をメインの業務としていて、使用する言語はPHPで、私はシステムエンジニアとして雇用されたわけだが、プログラマーとしてはまだまだ経験が浅く、そもそも私はその方面の専門学校を出たというわけではなく、プログラムに関しては後からスキルアップのためのスクールに通って身につけたのだった。スクールの経営母体は派遣業も営んでいて、スクールの授業を全て受講してから卒業試験をパスすれば、仕事を斡旋してくれるという話で、私はそれを利用して転職をしようと思い、派遣のシステムについて熱心に話を聞いて貯金を下ろし、足りない分についてはローンを組んだ。私は結婚間もなかったので、まだ貯金があった。
その後、約束通り仕事は紹介されそこで働くことはできた。その時の派遣会社のスタッフは、私よりもいくつか年齢は上なのだろうが、背も高く髪を短く刈り上げた爽やかな外見の男であった。男は最初の転職面談のときには私の通うスクールまで電車を乗り継ぎやってきたが、その次からは都内の駅前の喫茶店を指定するようになった。私はそこでコーヒーを頼んだ。費用は男がもった。実は男は私が仕事に就く直前で転職しており、
「あなたの派遣元は、自分の転職先の新しい会社になるので、スクールには内緒にしてほしい」
と言われた。条件等は一切変わらないとのことなので、私は黙っていることにした。
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第1回