意味を喪う

「意味をあたえる」のfktack( http://fktack.hatenablog.jp/ )の小説です。不定期に更新します。

2013/12/27

 新聞部の女顧問とは、実は6年2組の担任であった。私が6年の時は3組までクラスがあったが、1組だけが男の教師であった。1組の担任は30代か40代で短く刈った髪が天然パーマで縮れ、痩せ型で色黒でチェック柄のシャツの上に、紫色のトレーナーを着ていた。アコースティックギターを弾くことができ、たまに弾き語りをして生徒を楽しませるということだったが、クラスの違う私はそれを1度も聞いたことはなかった。教師は実のところ、3つのコードしか押さえられなかった。

 私は1組の担任とは馬は合わないだろうと、初めて見た時から思っていた。

 1組の担任は3組の、私の担任である女教師に惚れているというキャラを演じていた。私の担任はその当時30代前半であったが、すでに結婚をして娘も1人いた。その娘は私の弟と同い年であった。1組の担任が既婚であったかどうかは忘れたが、おそらく独身であるからこそ、この片想いの設定はよりリアルさを増し、1組の生徒には随分ウケていたようだ。私は3組であったから、この1組担任の片想い話を聞くことはなかったが、5年の時の林間学校で、たまたま耳にすることがあった。ちなみに5年から6年にかけては私の学校ではクラス替えはなく、担任も同じ人が2年間である。その時は1日目のお昼休みで、私達は山の中の宿泊施設へ到着したところだった。お弁当を食べたあとは、班ごとにチームを組んでオリエンテーリングを行うことになっており、オリエンテーリングのチームは、この後の宿泊する部屋のメンバーとはまた別のグループであり、宿泊時は各クラス混合の、同性の10名程度の部屋だった。

 私は仲の良いメンバーでシートを広げて昼食をとったが、その後1人で歩き出したのだが、その理由はゴミ箱を探していたからで、そのゴミ箱に私は弁当箱を捨てるつもりであった。母親が一泊であるなら、弁当箱が臭くなると判断し、使い捨てのプラスチックの弁当箱におかずを詰め、おにぎりは2個アルミホイルに包んだ。もし食べ切らずに残すことがあってもそのまま箱ごと捨てれば良いと母は言ったので、当時の私はもしかしたら少食で食べ物を残したのかもしれないが、私の記憶では私は食いしんぼうで、よく弟や妹のお菓子を横取りしたりした。

 私は母のこの「捨てれば良いから」という言い方に当初から不安をおぼえ、それは今から考えてみると捨てるというのが、弁当箱のみならず、親子の関係も捨ててしまえという拡大解釈をしていたからだった。親子の関係を捨てるというのはつまり、自立のことで、私はいつまでも幼い頃の親子関係を維持していくのは不可能だと悟ってセンチメンタルになっていた。

 しかし現地について弁当箱を広げると、私以外はみんないつも通りの弁当を用意しており、1日くらいでは例え食べ残しが臭いを発しても、我慢して持って帰ってくれば良いだけだったので、私は機会を伺ってそっとグループを抜け出し弁当箱を捨てるためにゴミ箱を探す必要があった。ゴミ箱は思うように見つからず、代わりに1組の担任が木のベンチに座っているところに出くわした。

(続く)

第1回


2013/12/11 - 西門