意味を喪う

「意味をあたえる」のfktack( http://fktack.hatenablog.jp/ )の小説です。不定期に更新します。

2014/1/8

 榎本かよこの両親は離婚しており、離婚は幼稚園の卒園のタイミングで行われたので、幼稚園時代と小学校以降では名乗る苗字が違った。しかしうっかりすると所持品の中には、かつての古い苗字が記載された持ち物もあって、私はそれを目にした時に、榎本かよこはこんなにも不細工だから両親は離婚したのではないかと考えた。

 しかし冷静に観察すると榎本かよこは、不細工というよりも不潔な雰囲気のする女で、髪の毛は天然パーマで眉毛が濃く、肌は吹き出物でざらざらしていた。柄の入った白いパーカーを好んで着用した。

 その、榎本かよこも他の生徒と同じように1組の担任の話に笑みを浮かべていたので、私は最初、彼女の存在に気づかなかった。

 

 ところで私はその時持っていた空の弁当箱を落として取り乱していたわけだが、それがもし腕時計であったら、あるいは弁当箱でも通常の容器の、使い捨てでないものであれば、こんな風に取り乱したりはしなかった。理由は持ち物であれば落し物扱いになるが、ゴミであればポイ捨てになるので、当然懲罰の対象になるからだ。しかも場所が、運の悪いことに1組の担任のそばであったから、もしかしたら1組の担任に殴られるかもしれない。その時の私は、まだ実際に1組の担任に殴られる前の私であったが、既に男の教師全般が殴るものであると認識していて、実際4年の時の担任は男だったが、生徒の頬をつねったりした。逆に1番怖くないのは保健室の女教師で、この女はまだ学校を出て間も無くて若いので、私たちは彼女の出身地は知らなかったが、勝手に長野県出身と決めつけ、よく笑い者にした。

 私は必死で女子たちの脚と脚の間を順番に、何度も確認していった。また、誰かに踏まれて弁当箱は潰れて形が変わり、そのせいで見落とすかもしれないので注意深く何度も見たが、見つからない。もはや1組の担任の話など全く聞いてはいなかったが、頭の中では3組の私の担任の顔が大写しで出ていた。それは1組の担任が相変わらず私の担任とキスをしたい、あの唇は果実のようにふっくらして美しい、なんて言っているせいだ。

「ちょっとだんだん詩みたいになっちゃったな。今度の国語のテストはここから出そう」

「えー」

 前にも述べたが、私の担任はその時30代前半の既婚女性であったがスリムで溌剌としていて、体育の授業で持久走を行った時などは、私と並走しながらなんとか私を追い抜こうとしたりした。その時の私は運動神経で言えばクラスで中くらいで、学校外でも少林寺拳法を習っていたので、そこまで鈍いわけではなかったので、私も簡単に抜かれるわけにはいかなかった。
その担任の唇について、ましてや乳房や性器について、当時の私が考えたことは1度もなかったが、目の前の1組の担任は、今度は私の担任の乳房について言及した。大変小ぶりで固く、自分の手におさまりの良い乳房だと語った。3組の担任は、高校時代は陸上部で、走り高跳びで県大会に出たらしい。

「G先生の体はとても締まっている。ぼくは締まった体のほうが好きだ」

 私は子供相手にそんな話は問題になるのではないかと、子供ながらにひやひやしたが、1組の担任はあっけらかんとして、自分の趣味について熱心に語るように乳房と体について語った。1組担任の趣味は釣りである。クラスの男子とも一緒に行ったことがあるらしい。彼らが釣りをした川に、私はかつて突き落とされた。女子たちは

「いやだー」

 なんて言いながらも笑っている。

 私はそのうち私の担任が丸裸にされてしまうことをおそれ、早く弁当箱を見つけてそこから離れてしまいたかったが、見つからない。

(続く)

第1回


2013/12/11 - 西門