意味を喪う

「意味をあたえる」のfktack( http://fktack.hatenablog.jp/ )の小説です。不定期に更新します。

2014/1/28

 話はだいぶ戻るが、小6の夏か秋に、私は母と妹と弟と一緒にゲームのカセットを買いにきた。

 カセットと言っても、私が小6の時に1番流行していた機種はPCエンジンという機種で、それのソフトはカード型でHuカードという名称だった。Huカードはカードの先を水平にして横向きに本体に差し込んでゲームを行うが、差し込まない側にはソフト名とイラストの書かれたシールが貼られ、1番手前にはすべり止めのための溝が何行か掘られていた。しかし私たちの仲間内では実際にこの溝を滑り止めとして指をつけると、垢が溝に入り大変汚らしくなってしまうから、そこを触るのはご法度となっており、それがもし友達から借りたソフトなら尚更気をつけた。私は自分のソフトが汚れるのも嫌だったので、ゲーム名の印字されたシールの上に親指の腹をあて、摩擦を利用して引き抜こうとするが、うまくいく時はすんなり抜けるが、そうでない時は両手でやってもつるつる滑り、やがてカードの裏側に傷がついた。

 私たちが何を買おうとして北坂戸駅に来たのかは忘れたが、東口に降り立ち、出るとすぐに看板が立っており、そこにはロータリーを作り変える工事を行う旨が記載され、完成は今から5年後になるとあった。看板には完成予想のイラストも描かれており、それを見ると新しいロータリーは2階建てであり、歩行者は階段をのぼって2階へ行き、そこがそのまま駅の中へ繋がっている。かなり大がかりな工事であることは、イラストと記載された着工期間から判断できた。私は完成する頃にはもうこの駅には来ることはないだろうと決めつけていたので、楽しみだとか思わなかった。

 母も北坂戸駅に来たのは今日が初めてであったが、看板には全く目を止めずにその場を通り過ぎた。妹と弟もそれに従って早足でそこを通り過ぎた。少し行くとマクドナルドがあり、そこを右に折れて50メートルも進めばやがてさくらマーケットに到着する。今回ここへ来た理由は、妹が欲しいゲームカセットを買うために来たのだった。妹が欲しかったのはスーパーマリオ3というファミコンのカセットだった。私の家にはファミコンもあった。弟はただの付き添いだった。

 私はここへ来るまでに、北坂戸の2軒あるファミコンショップのことは母に十分説明し、さくらマーケットの方が店も大きくてスタッフも多くて品揃えもいいかもしれないが、もう1軒の方が安いしさくらマーケットの方はババアがうるさいので、スーパーマリオ3はさくらマーケットではない方で購入しようと提案していた。しかしせっかくきたのだから、さくらマーケットの方にも顔は出すつもりでいた。しかし、私は自分用のソフトを買うつもりはなかった。

 その日は土曜日で、私たちはお昼ご飯を食べてから家を出てきた。遅く家を出た理由は前に説明した通り、さくらマーケットではない方は、午前中に店を開いていることがあまりなかったためである。そのため土曜日なら午前中に学校へ行ってから行けばちょうどいいと判断した。もうひとつの理由として、土曜日の午後はサッカー少年団が活動する日だったので、店内でクラスメートや以前のいじめっ子と鉢合わせする可能性がぐんと低くなるためである。弟もその後サッカー少年団に所属したが、誰かをいじめたという話は聞かなかった。

(続く)

第1回


2013/12/11 - 西門