意味を喪う

「意味をあたえる」のfktack( http://fktack.hatenablog.jp/ )の小説です。不定期に更新します。

2014/2/3

 しかし私の所属する部署は、特にお客様と直接やり取りをするところではなく、1日中同じような作業を繰り返すので、私語が厳しく制限されているわけではない。洗濯機のそばには古いラジカセが置かれていて、そこからはラジオが1日中流れている。番組は午前と午後と、午後5時に次のものと入れ替わる。このラジカセはIさんが家から持ってきたもので、左側のスピーカーのカバーが丸くへこんでいる。私はかつてIさんの妻だった女性とケンカをした時に、頭にきたIさんがスピーカーにパンチを食らわせたのではないかと推測したが、Iさんは痩せていて穏やかな外見なのであまり暴力を振るうようには見えない。Iさんは今は別の彼女がいて、私は以前結婚するのかと質問をしたことがあったが、答えは曖昧であった。性行為の際には特に避妊はしないので、そのうち子供ができちゃったら結婚は考えると話していた。ちなみに彼女の方もバツイチであるが、前の結婚の時の子供はいない。

 話はまた昔のことに戻るが、私が中学に上ると、私の弟はわたしの6歳下であるから、弟は小学に上がった。小学になったのでまた弟用の学習机を購入した。しかし子供部屋に弟の机が入れる余地はなかったので、前述の雛飾りを飾ったりする、私以外の家族が寝起きする8畳の座敷に置くことになった。いよいよ私の家は手狭になった。私は黒く塗装された弟の机を眺めながら、あることを思い出した。

 私が小学1年の時に、まだ上がって間もない頃だったがある日の宿題として、各自家の自分の机をきれいに掃除するというのがあった。その時の担任は若い女の教師で綺麗好きであり、私たちは掃除の時間は大変厳しく指導を受けていた。床を雑巾がけする係の時はまだ大勢の人間で行うからまだいいが、ほうきではく係は、ほうきはクラスで1本か2本しかなかったので、日直が行うこととなっていた。その時は集中的に指導された。私はあまり注意されるのが嫌だったので、家に帰ると母にほうきを出してもらい、家の廊下でほうきをはく練習をした。私の家ではいつも掃除機を使うので、家のほうきは学校のものよりもきれいだった。ほうきの練習をしたいと母に申し出た時には、ほうきなどないと思って、私は自分でわがままを言っているような気持ちになった。私はその時初めて自分の家にもほうきがあることを知ったので、もしかしたら私に言われた母が急いで買ってきたのかもしれない。

 とにかく私は廊下をほうきではき、ちりとりについては、床の板の継ぎ目に当てなければゴミはちゃんと取れないと注意されていたので、私は廊下から玄関まではいてから、玄関の床の継ぎ目にちりとりをあてた。しかし私の家の床はそんなに継ぎ目に隙間はなかったので、本当にあてているという感じだったが、私は自分の体におぼえさせる意味もこめて、きっちりとちりとりが継ぎ目からずれないように注意した。腰を曲げてちりとりに集中する私を母は近くで眺めていて、母の背中の上には弟がいた母のおんぶ紐は紺色をしていた。妹はテレビを見ていた。

(続く)

第1回


2013/12/11 - 西門