意味を喪う

「意味をあたえる」のfktack( http://fktack.hatenablog.jp/ )の小説です。不定期に更新します。

2014/2/5

 しかし私は栗田みきほど出来は悪くはなかった。その証拠としてある3人の生徒が、すでに椅子を取られている状態のときに、さらに担任を怒らせ、この時担任はもう椅子は没収済みであったので、さらなる罰を与えるために引き出しを丸ごと没収したのである。その中の1人が栗田みきだった。中身の入ったままの引き出しを強引に担ぎ上げて窓際の担任の机の上に積み上げる様子を、机を取られなかった私たちは唖然としながら見つめた。そしてその日の授業が終わると担任は、その3つの引き出しをどこかへ隠してしまった。引き出しを没収された3人の生徒とは、そのうち2名が男で1名が女で栗田みきだった。当時の机の引き出しはプラスチック製で、真ん中に溝がつけられており、そこに定規を立てて仕切りとして使用できる作りであり、生徒たちは左側にノートと教科書を入れて、右側にはハサミや色鉛筆を入れた。男は緑色、女は橙色と指定されていた。担任は没収した引き出しを橙色を真ん中に緑で挟み、サンドイッチのようであった。それから数年が経つと、引き出しのデザインは大幅に変更され、まずは色については男女ともに水色となり、さらに左右で一枚ずつとなり、これは中身を空にすれば重ねることもできたので、持ち運びは以前よりもだいぶ楽になった。私の時代は全体で一枚なので大きいので、みんなランドセルに挟んで持って帰り、はみ出た部分がジェット機の羽根のようだった。

 引き出しを没収されたうちの2名の男子は、いつも怒られてばかりの落ちこぼれの生徒だったので、クラスの生徒たちはそこまで驚かず、取られた方も怒られることには慣れっこになっていたので、表情にはふてぶてしさすら見えた。しかし顔は青ざめていた。

 栗田みきに関しては担任が引き出しを没収することを宣言した時点で、すでに泣き出しており、担任が取り上げようとする時にはわずかに抵抗も示したが、担任が一喝すると諦めて手を離した。私は泣きじゃくる栗田みきを見て、栗田みきがここまで取り乱す理由について、やはり女子で唯一の引き出しのない生徒となることに、本人なりに屈辱をおぼえたのではないかと分析した。そう考えると男子生徒2名はふてぶてしさすら、と先ほど書いたが、これはやはり2人いるからそうやって余裕ぶっていられるだけで、今後引き出しなしでどうやって生活するかとか、いつ頃謝りにいくかも2人で相談できるから、これがもし1人きりとかであれば、取り乱したのかもしれない。そう考えると担任はバランスを取るためにも男子も1人にするか、あるいは女子を栗田みき以外にもう1人追加する必要があったのではないかと思う。私がそんな風に冷静に自分の考えを誰に話すでもなく頭の中で、冷静に展開できたのは、その時の私はもうすでに椅子を取り戻した私であったからだ。取り戻したのはまだ先週か先々週の話であったから、私はまだまだ椅子のありがたみがわかる状態で、しかし長いこと椅子がない状態だったので違和感もあったが、膝の疲れなどは全く違う。今ならなにかヘマをやらかしても、椅子は残っているので、椅子は取られても引き出しまでは取られる心配はないから私は余裕なのであった。そもそも3人に椅子がないのは、担任に謝るなどの働きかけもしないで、ある意味開き直っていたからで、そういう意味では自業自得なのかもしれないな、とも私は思った。

 こうして3人の引き出しのない生活が始まったわけだが、教科書もハサミもみんな取り上げられたので、授業には支障が出て、道具が必要になる度に隣の席の人から借りなければならなかった。私はこの3名の誰とも近くの席ではなかったので、段々とこの3人が引き出しがないことに興味をなくし、道具を隣の席の人に借りる様子も、それほど熱心には見なくなった。栗田みきも引き出しのない生活には慣れていったようで、それ以来担任もあまり怒ることなく平和な日々が続いた。

 それから2週間か3週間が過ぎ、クラス内にそろそろ3人の引き出しが戻ってくるのではないかという噂が流れ出した。

(続く)

第1回


2013/12/11 - 西門