意味を喪う

「意味をあたえる」のfktack( http://fktack.hatenablog.jp/ )の小説です。不定期に更新します。

余生(6)

※前回

余生(5) - 余生

 

 すると、ドアの向こうから「誰かいるのか?」と声が聞こえ、ドアとは私が入ってきたガラス戸ではなく、右側の木の引き戸の方から聞こえた。そういえば下駄箱には黒い靴が詰まっていたことを思い出した。交流会は4時からの予定で、私は2時3分にここへ来たのだから、早すぎたのだが、区長などはその前に定例会を開いていたから、すでにみんな揃っていたのだ。

 私はこのまま気配を消して玄関まで走り、逃げてしまおうかと思い、

「にゃーん」

 猫のふりをして、誤魔化す作戦に出た。するとガラッとドアが開き、そこにいたのは区長の1人のオカダさんだった。オカダさんだとわかった私は、すぐに「お疲れさまです」と改まって挨拶をした。表情は半笑いだった。台所にいたのが私とわかれば、オカダさんの警戒も解けるだろうと私は期待をしたが、しかしオカダさんは表情は硬いままで、それを見た私も動きが止まり、何を言われるのかと思ってオカダさんの表情に注目していた。オカダさんの顔は面長でホクロが多く、痩せ体型だった。私よりも背が高いので、私は見上げるような体勢になっていた。オカダさんは

「もしかして、今の話聞いちゃった?」

 と聞いてきたので、私は

「何も聞いてないです」

 と正直に答えた。オカダさんは両手をこすり合わせた後に腰にやり、その動作はゆっくりしていたので、私は信じていないんだなと思った。