余生(6)
※前回
すると、ドアの向こうから「誰かいるのか?」と声が聞こえ、ドアとは私が入ってきたガラス戸ではなく、右側の木の引き戸の方から聞こえた。そういえば下駄箱には黒い靴が詰まっていたことを思い出した。交流会は4時からの予定で、私は2時3分にここへ来たのだから、早すぎたのだが、区長などはその前に定例会を開いていたから、すでにみんな揃っていたのだ。
私はこのまま気配を消して玄関まで走り、逃げてしまおうかと思い、
「にゃーん」
猫のふりをして、誤魔化す作戦に出た。するとガラッとドアが開き、そこにいたのは区長の1人のオカダさんだった。オカダさんだとわかった私は、すぐに「お疲れさまです」と改まって挨拶をした。表情は半笑いだった。台所にいたのが私とわかれば、オカダさんの警戒も解けるだろうと私は期待をしたが、しかしオカダさんは表情は硬いままで、それを見た私も動きが止まり、何を言われるのかと思ってオカダさんの表情に注目していた。オカダさんの顔は面長でホクロが多く、痩せ体型だった。私よりも背が高いので、私は見上げるような体勢になっていた。オカダさんは
「もしかして、今の話聞いちゃった?」
と聞いてきたので、私は
「何も聞いてないです」
と正直に答えた。オカダさんは両手をこすり合わせた後に腰にやり、その動作はゆっくりしていたので、私は信じていないんだなと思った。