意味を喪う

「意味をあたえる」のfktack( http://fktack.hatenablog.jp/ )の小説です。不定期に更新します。

余生(17)

※前回

余生(16) - 余生

 

 どんな話の流れで馬の話になったのかは忘れたが、その話を私は、同じ地区の顔見知りという間柄の風を装って聞いた。園長が私のことを園児の親であり、さらには私自身もかつては同じ園に通っていて、園長のことはよく知っているが、向こうが私のことを覚えている保証はないからだ。私はかつては小児喘息を患っていて、幼稚園の半分は休んでいたし、年中具合を悪そうにしていたから、もしかしたら覚えているかもしれないが、私はあの頃とは住んでいる場所も名前も違う。

 せめてネモちゃんがこの場にいれば、流石に現役の園児の顔は覚えているだろうから、私のことも園児の父兄として扱ってくれるだろう。ネモちゃんは家でYouTubeを見ている。去年までは妻もこのソフトボール大会に出場していたが、(女は18歳以上が出られる)妻は特に運動神経がいいわけではなく、学生時代は吹奏楽部だったので、今年は足が痛いと言って、辞退したのだった。私も運動関係はほとんどダメだ。

 それでやがて馬の話も終わってアイスも食べ終わり、練習が再開したら、夫婦で練習に参加している私と同じ役の人の子供が、その人の家は3人の子供全員が来ていて、それは全員が男の子で、男の子たちは、最初は他の選手じゃない人たちが声をかけたりして、ベンチのそばで遊んでいたが、やがてどこかへ行ってしまい、戻ってきたら

「ザリガニがいた」

 と上の子が言った。ソフトボールの練習が行われているのは、県道沿いのグラウンドで、道の向こうは田んぼが広がっていて、少し行くとあまり大きくない川が流れている。農家はそこから田んぼに水を引いている。だから私はザリガニと聞いて、その川をまず思い浮かべ、そこは小学校の頃に何度も行ったし、確かにザリガニも釣れた。今でも釣れるとは知らなかった。おそらく練習はあと30分はやるだろうから、他の大人たちは川へ行っちゃダメだと注意していたが、私が

「ついていきますよ」

 と名乗り出たので、もう誰も止めなかった。練習はちょうどノックが始まったところで、お父さんの方はショートを守り、お母さんはキャッチャーで、キャッチャーマスクをかぶっていた。