意味を喪う

「意味をあたえる」のfktack( http://fktack.hatenablog.jp/ )の小説です。不定期に更新します。

余生(18)

※前回

余生(17) - 余生

 

 子供たちが私を連れて行ったところは、確かに川だったが、グラウンドからすぐのところではなく、そこから数百メートル川下に行ったところだった。彼らはそこでザリガニを見たと言うので、1度はそこまで歩いて行ったのだ。もしかしたら別の日に行ったのかもしれない。自分たちだけで、こんな遠くまでくるのはいけないことだと、私は長男の男の子に注意をしようかと思ったが、そこの家の教育方針はどうなのか知らないので、黙っていた。彼らは男の子3人で、長男は小学2年か3年生で、下2人はネモちゃんと一緒か年下くらいなので、年下の子がここまでよく歩いたなあと私は感心をした。私は途中に赤い橋が川にかかっていたので、この辺でザリガニを探せばいいんじゃないかと提案をしたが、彼らは聞く耳を持たなかった。赤い橋は他の橋とは違う歩行者専用のもので、材質は鉄骨でできているが、昔の橋のようにアーチ状になっていた。

 私はこれと同じ橋をつい数日前に見た。場所は伊香保であった。誰の趣味で田んぼの真ん中にこんな橋がかけられたのかは知らないが、ザリガニと同じ赤色だから子供が興味を持って、ザリガニのことを忘れてくれるのではないかと、私は期待したのであった。子供たちがザリガニを発見した場所について、最初に「あの辺」と指さした地点から、半分くらいの地点しか、まだきていなかった。このまま行って、ザリガニ釣りに興じたら、確実にソフトボールの練習は終わってしまい、そうしたらこの子達の両親は子供がいないことに気付いて、私たちを探し始めるだろう。そうしたら、探している人の誰かは、私のことを誘拐犯だと思うかもしれない。いやいないだろう。そういう風に思われたら愉快だという話だ。私は元々K地区ではなく、別の土地に住んでいた人間だから、土地にこだわりのある人なら、私のことをよそ者の気に食わない奴とか思うのかもしれない。しかしそれを言い始めたら、この兄弟の親も、結婚してからこっちへ引っ越してきていて、元々は同じ郡内の、Rという町に生まれ育ったと聞いた。