意味を喪う

「意味をあたえる」のfktack( http://fktack.hatenablog.jp/ )の小説です。不定期に更新します。

余生(19)

※前回

余生(18) - 余生

 

それは去年の忘年会のときの話で、そのとき私たちは同じ体育委員だったので席が隣で話すこともないので、大して面白くもないが、自然とそういう話になるのである。逆に齋藤さんの方からも

「どこに住んでいるの?」

 と質問をされ、私は自分の家の場所を説明するのがとても下手なので困った。遠くの方へ住んでいる人にだったら

「コジマ電機からベルクへの通りの、ベルク寄りの左に折れて少し行ったところです」

 と言えば済む。コジマ電機の場所に関しては、遠くてもは知っている人が多いので助かる。しかし齋藤さんは近所なのでもっと細かく伝えなければならないので、

「えーと、歯医者あるじゃないですか。それで神社の方へ行って曲がって、坂を下って……」

 と説明をするのだが、この説明はタクシーになら通用するが、この辺の人には伝わらない。実は坂の途中には「○○製作所」という工場があり、その名前を出せば一発なのだが、私はいつもどうしてもその名前を忘れてしまう。「○○製作所」のそばにはさらにトヨタの孫請けの「△工場」があり、しかしそこはこの前のリーマンショックから少しして閉鎖してしまった。坂からは掲示板とコカコーラの自販機の側面しか見えなかったので、稼働しても閉鎖しても、風景はあまり変わらなかった。

 齋藤さんの生まれ育ったRという町については、私は以前の仕事で何度か来たことがあり、それは労働組合で働いていた頃の話で、そこの公民館で、組合員に対する健康診断を行い、私は受付の役をしに来たのだった。健康診断は病院の人が行った。病院の人は、8人くらいいた。公民館は家から車で30分くらいの距離にあり、私は家を7時過ぎに出た。健診の開始は9時か9時半だったので、そんなに早く出る必要もなかったが、なんせ相手は職人で朝は早いので、公民館に到着するとすでに10人以上の人が各自の車の中で待っていた。