意味を喪う

「意味をあたえる」のfktack( http://fktack.hatenablog.jp/ )の小説です。不定期に更新します。

余生(21)

※前回

余生(20) - 余生

 

 それから1ヶ月もしないうちに黒沢さんは亡くなった。私は、黒沢さんの近所の組合員からそのことを教えてもらった。私は支部長に電話をかけて葬儀の日程を伝え、組合の分の香典を持って行ってくれるように頼んだ。金額は1万円で、立て替えてもらった分は、次回の執行委員会で払うと私は伝え、執行委員会は毎月月の真ん中くらいに開催され、日程は執行委員長が決める。それはいつも水曜日と決まっていた。それは執行委員長の妻が腎臓が悪く、火曜と木曜と土曜に透析を受けに行かなければならなかったからである。水曜でどうしても具合が悪いときは、月曜か金曜になった。金曜だと翌日が休みの日になってしまうので、月曜のほうがまだ良かった。それから組合員本人が亡くなったときには、花輪と弔電を打つ決まりとなっており、弔電の差出人のところには執行委員長の名が入るが、委員長の名前は「良男」と書いて「かずき」と読むので、必ずルビを振る決まりとなっていて、その分だけ電報の料金は上がった。

 話がそれたが、結局齋藤さんの実家はR町の公民館の方面ではなく、工業団地の方だったので、私は工業団地についてはわからなかったので、話すことがなくなった。やがて齋藤さんは煙草に火をつけてそれを吸った。対して私はテーブルの上のサーモンの刺身に箸を伸ばした。刺身はプラ製の皿の上にあり、他にはマグロと鯛と甘エビがあった。あとは乾き物だった。それからすることがないので、特に尿意はないがトイレに立とうと思った。そのとき、私の向かいに座っているのは老人会の人たちが3人だったが、右から女男男という順番で、知らない人たちなのでお酌だけして話はしなかったが、そのうちの1番左が私に声をかけてきた。

「君が志津のお父さん?」

「はい。そうです」