意味を喪う

「意味をあたえる」のfktack( http://fktack.hatenablog.jp/ )の小説です。不定期に更新します。

余生(29)

※前回

余生(28) - 余生

 

 改札でYさんを見つけるよりも先に、見覚えのある顔を見つけ、私が見続けていると、やがてその人は私に気づいて私の方へやってきた。その人は都内のホテルで営業をしていると、以前聞いたことがあって、おそらく仕事帰りなのだろうと容易に想像がついた。スーツ姿であったがネクタイは締めていなかった。

「体育委員、やめられたの?」

「さすがに四年もやったらもう十分ですよ。次の人も決まってましたし」

 その人は私よりも1年早く体育委員をやめていたので、私が3月でやめたことは知らなかった。体育委員も区長もK地区では2年が任期なので、その人が3年でやめたために、今はそこの地域だけ任期がずれてしまっている。しかしその人がまるで無責任というわけでもなく、元は2年で任期が切れるところを当時の区長と相談役の人が止め、なぜ止めたかというとその年の体育祭でK地区は7つある地区の中で3位となり、それは地区が始まって以来の快挙であったからだ。私たちはそれじゃああと1年延長するということになり、ところが次の年の体育祭は雨で中止となってしまった。当然周りは

「それじゃあもう1年」

 と言い出したが、その人はちゃっかり次の人に役を押し付けてしまった。私も当然そこでやめてしまいたかったが、次の人を見つけてはいなかったし、そもそも土地の者ではない私には目星もつけられない。

「今年俺45だからさ、ソフトの方も声かかると思うんだけど、友達とかにも声かけてさ。そうしないと」

「確かに若い人が出ないとあれですよね。年寄りばっかじゃ勝てないから」

 地区対抗のソフトボール大会は男については、45歳以上でなければ出られないというルールがある。私が出られるようになるのはまだ10年先で、私はそれまでにはこのソフトボール大会自体がなくなることを期待している。K地区はソフトボールに関しては、まだ1勝もしたことがない。