余生(35)
※前回
私は、餌のさきイカが尽きてしまったので、とりあえずイカの入っていたゴミ袋をポケットに突っ込んだ。このまま無理やり子供たちを説き伏せてグラウンドへ戻るのも手だったが、私はふとその辺に猫じゃらしが生えているのを見つけ、これを使えば餌の代わりになるのかもしれないと思った。私はこの作戦がうまくいかなかったら恥ずかしいと思ったので
「いけるかも」
と小声で言うにとどめて、猫じゃらしを水につけた。子供たちは何も言わずに水の中を覗きこんだ。ハサミの前で揺ら揺らさせてみると、ザリガニは思わずそれを掴み、釣り上げることができた。ザリガニは一度何かを挟んでしまったら、なかなか離すことができないようだ。ザリガニを畔に放り投げると私は一気にテンションが上がり、
「とんでもない馬鹿」
「だせえ」
とザリガニを罵った。子供たちは辺の猫じゃらしを全てむしったが、結局その後釣れることはなかった。さらに夢中になっているうちに、最初の一匹がいつのまにか逃げていた。私はいい加減潮時だと思い、帰ろうと提案をしたら
「もうちょっと」
と水路に頭を突っ込んだまま動かないので、この子達がもし自分と血がつながっていたらな、と思った。血がつながっていたら、もっと強い調子に出れるし、男の子だから多少は蹴飛ばしたりしてもいいかもしれない。私の家は女の子なので殴ったりはしないが、やはり聞き分けが悪ければ殴る。やがて私は水路から顔を上げ、久しぶりに腰を伸ばし、痛みがないかどうかを確認すると、子供たちを置いて少しずつ歩き出すことにした。子供たちは、走って追いかけてきた。ザリガニは1番下の子が持っていた。
帰り始めると子供達の足は早く、私は男の子は体力があるなと感心をした。そして、やはり自分の子でなくて良かったと思った。自分の子であれば手を繋ぐとかおぶって帰るとか、そういう親らしいことを考えなければならないからだ。