意味を喪う

「意味をあたえる」のfktack( http://fktack.hatenablog.jp/ )の小説です。不定期に更新します。

余生(37)

※前回

余生(36) - 余生

 

 志津はそれから6年後に中学に上がり、5月頃からある女子のグループから嫌がらせを受けるようになった。相手は4名か5名であり(相変わらず志津の説明は不明瞭だ)そのうちの2人は同じ小学校出身で、なおかつK地区に住んでいた。最初は音楽の時間に、合唱の並びに移動する際に足を踏まれたとか、そんな些細なことだったので、私も妻も

「やられたらやり返せ」

「他の人とつるめ」

 とアドバイスをしたが、ある朝突然私たちの寝室へやって来て

「学校行きたくない」

 と言い出した。私は半分眠った状態でその言葉を聞き、しかも先に妻の方が返事をしたので、私は聞こえなかったふりをしてこのまま寝続けようかと思った。志津は吹奏楽部に所属していて吹奏楽部には朝練があるため、私は普段ならまだ寝ている時間だった。ネモちゃんもまだイビキをかきながら、私の脇腹に頭をねじ込ませていた。私たちはシングルとセミダブルのベッドを繋げて1枚の大きなベッドとし、そこに3人で寝ていた。

 妻はすぐにヒステリックに

「なんで?」

 と理由を知りたがり、志津がはっきりと答えないので、私にどうする? と矛先を変えてきた。私は頭は覚醒していたが、わざと寝ぼけた声で

「行きたくないなら行かなくてもいい。それは本人の自由だ」

 と答えた。当然妻は逆上した。

「このまま学校行かなくなったらどうするのよ」

「そしたらやめちゃえばいいじゃん」

「やめてどうするのよ」

「他の学校とか。あとは登校拒否の人が行くスクールとかあるじゃん」

「そんなのダメに決まってるでしょ」

 私はどうしてダメなのか、問いただそうとしたが、ケンカになるだけなので、言葉を飲み込んだ。妻はしまいには

「なんでうちの子ばかり」

 と泣き出した。志津の同級生の中には、4月の時点ですでに登校拒否になっている子もいたので、私は、志津がこのまま学校へ行かなくなっても、それほど突飛なことではないと思った。