意味を喪う

「意味をあたえる」のfktack( http://fktack.hatenablog.jp/ )の小説です。不定期に更新します。

余生(40)

※前回

余生(39) - 余生

 

 それから1年後に、今度は小学校に上がったばかりのネモちゃんが、行きたくないと言い出した。前の席の男の子がプリントをまわしてくれない、嫌がっているのに、鼻先に虫を近づけてくる、などがその理由だ。こうして文字にしてみると他愛のないことだが、やはり志津のときと同じように、私は学校へ行くべきではないと主張した。志津には行くなと言いながら、ネモちゃんには行けというのは、アンフェアだし、後々志津に恨まれる気がしたからだ。しかし今回は妻も

「じゃあ休むか」

 と同意をし、すぐに着替えて通学班の集合場所に欠席カードを持って行った。私はネモちゃんの支度を手伝う必要がなくなったので、二度寝をした。妻は8時が過ぎたころに学校へ連絡し、担任に取り次いでもらって状況を説明すると、その男の子については、注意して行動を見てみます、ところで今日は心電図の検査がありますがどうしますか? と聞かれた。心電図なんて、子供がそうそうに不整脈の疑いなんてならないし、もちろん不整脈を調べるだけが検査ではないことは承知していたが、私はそれがイジメよりも重要なこととは思えなかったので、そんなことを言う教師の神経を疑った。ちなみに私は年明けの会社の健康診断では、心電図の結果にいくつかの途切れがあり、問診のときに紙を見せられ、それはただのボールペンのインク切れのように見えたが、そこが脈の途切れた箇所で、不整脈とは言い切れないが、専門医に観てもらった方がいいと言われた。私はしかし、面倒なのでそのまま放置している。教師はもし、今日の検査を受けなければ後から市民病院か、S病院に行かなくてはならないと説明し、心電図の時間だけ登校したらどうかと提案をしてきた。それを聞いた妻は、電話を切ると行くべきか私に相談してきた。私は、当然ながら心電図など後回しで良いと言った。気の利く教師であれば、他の生徒と鉢合わせしないよう配慮してくれるのかもしれないが、今の電話のやり取りで、とてもそんなことは期待できそうになかった。