余生(44)
※前回
体育祭の打ち上げは当日の4時30分から、K地区の集会場で行われた。入り口にある木でできた表札には「老人憩いの家」と書かれ、広間には畳が敷かれていた。その打ち上げにはサトミさんはおらず、最初はサトミさんもEさんも打ち上げには参加しない予定だったが、Eさんが後から来た。私が家から集会場へ行く道を歩いていると、犬を散歩させているEさんに、郵便局の前でばったり出会い、誘ったのである。犬を散歩させているEさんは昼間と同じ格好をして、足元だけサンダル履きであった。昼間は白地に群青のラインの入ったスニーカーを履いていた。昼間の強い日差しを受けて、顔は真っ赤になっていた。
「筋肉痛とか大丈夫ですか?」
「もうヤバイですよ」
私はその時はEさんの趣味がバドミントンだとは知らなかったので、そんなことを話したのであった。慰労会に参加しないんですかときくと、Eさんは慰労会があることを知らず、私は区長の周知の甘さに腹が立った。費用は区で持つことになっているから、主だった人のみで済ませてしまうつもりなのかもしれない、と私は邪推をした。しかし、練習の最後には大区長のキクチさんが
「一席設けましたので……」
とマイクを使って言っていたので、単にEさんが聞き逃していただけなのかもしれない。
「ぜひご夫婦で」
と誘うと、私はもしかしたらEさんはそういう集まりに顔を出すのが嫌で、慰労会なんて聞いていないと主張したのかもしれないが、たとえそうでも予定があると断れば済む話なので、私は「せっかく出てもらったんだし」と構わず誘い続けた。
「費用は区が持ちますよ」
とも言いそうになったがやめた。Eさんは犬のリードを手にぐるぐると巻きながら、しばらく考えていたが、やがて
「行けそうなら顔を出します。ちょっと聞いてみて」
と答えた。
「良ければ奥さんも」
「それはちょっと」
郵便局の隣は竹藪となっていて、無数の竹が風に揺れており、だいぶ気温も下がってきていた。Eさんの犬のリードの色は赤だった。