意味を喪う

「意味をあたえる」のfktack( http://fktack.hatenablog.jp/ )の小説です。不定期に更新します。

余生(58)

※前回

余生(57) - 余生

 

 自転車で来る人の自転車は、後輪の泥除けの部分にシールが貼ってある。銀の光沢のあるシールには、任意のアルファベットが一文字と、そのあとに2桁の番号が印刷されている。どうやらこのシールが貼ってなければ、駅の駐輪場には置けないルールになっているようだ。その辺の道端にでも置けば、すぐに撤去されてしまうのだろう。

 私が定期的に自転車に乗っていたのは大学時代が最後で、しかも後半は車で通学していたので、もう15年も前の話になる。そのときは市営の駐輪場は無料で利用することができ、無料であったからすぐに自転車とスクーターでいっぱいになった。管理人などいなかったから、乱暴な人は狭い隙間に無理に前輪をねじ込んだり、そうでなければ他の自転車を放り投げてスペースを確保する人もいた。有料の駐輪場もあったが、私は無料のスペースがあるのに、わざわざ金を払って停めようとは思わなかった。しかし、私はそこで自転車を1度ならず盗まれたので、長い目で見れば損をした。

 無料の駐輪場がいっぱいのときは、駅前のスーパーに停めることもあった。営業時間内に戻ってこられれば、文句を言われることもないだろうと、私は勝手に思っていた。
 それから何年か経って駅の大規模な建て替え工事があり、それに伴って市営の駐輪場もなくなった。私はそれでは困る人もいるのではないかと思ったが、その後には自転車用のコインパーキングができた。その頃の私はもう働いていて、車通勤で自転車に乗ることもなかったので、私にはあまり関係のない話だった。

 しかし今年の連休にYさんに飲みに行かないかと誘われ、駅で待ち合わせということになり、いつもなら妻に駅まで送ってもらうのだが、その日は昼過ぎから出かけてしまっていない。そういう場合は行きはバスで行って、帰りに迎えに来てもらうのだが、妻は子供たちと義母と浅草に行き、そのついでにスカイツリーに行くと言うので、帰りの時間は下手したら私よりも遅くなるかもしれなかった。帰りもバスでいいじゃないかと、読んでいる人は思うかもしれないが、私の住んでいるところでは、9時か10時にはバスは終わってしまうのだ。しかし私はそこまで注意深くバスの時刻表を見たわけではないので、10時、と言っても10時57分とかなのかもしれない。時刻表はiPhoneで検索したが、バスの時刻表は電車に比べてなかなか見つからない。そもそも乗っているバス会社がどこなのかもわからないので、検索窓にバス停の名前を入れて、というところから始めなければならない。おまけに見つけた時刻表はPDFで保存されており、PDFは重いから、なかなか画面に現れない。そうやって手間をかけて見つけ出しても、私は最も必要な情報を得ると、すぐに消してしまう性格で、終バスの時間など最初からあまり見ないのだ。