意味を喪う

「意味をあたえる」のfktack( http://fktack.hatenablog.jp/ )の小説です。不定期に更新します。

余生(60)

※前回

余生(59) - 余生

 

 旅行先は山中湖であり、途中で釣り堀に寄って、ニジマスイワナを釣った。それをバンガローまで持って行き、バンガローの庭先でバーベキューをする予定であった。途中で雨が降ってきて、それは強い雨だったので釣り堀は早めに切り上げ、助手席までダッシュした。駐車場は舗装されていない砂利で、すぐにいくつもの水たまりができていた。私のズボンは、跳ねた泥で汚れた。私は長ズボンを履いていた。私の手には、釣ったニジマスイワナがビニール袋の中では積み重ねられており、私はそれが濡れないように前かがみで走ったが、ニジマスイワナはさっきまで水の中にいた。車に到着してから私はタオルなど持っていなかったので、ポケットからハンカチを出し、少し迷ったがずぶ濡れになった車のドアを拭いていると、運転席の吉村さんは

「大丈夫だよ」

 と気遣ってくれた。ニジマスイワナは、バンガローに到着すると、意外と魚は食べられないという人が多く、ほとんどが余ってしまったので庭の端の草むらに捨てた。バンガローはとても大きな一軒家で、2階が女性部屋と決め、男性は広間で適当に雑魚寝をした。奥には和室もあったので、そこで寝る人もいた。

 吉村さんはどうしようもない馬鹿であり、そのあと留年をして私と同じ学年になった。しかしその後学校に姿を見せることがなくなり、やがて学校を辞めてしまった。美容師になるために専門学校に入り直す、と誰かが言っていた。それがいいと私は思ったが、周りの人は、どうせすぐ投げ出すだろうと、言い合って笑っていた。

 ところでここまでの話にYさんが出てこなかったが、Yさんはその時はサークルの部長をやっており、私も周りの人も「部長」と呼んでいた。話に出てこないのは、Yさんと吉村さんが仲が悪く、表面上は仲が良さそうに振舞っていたが、2人が会話をしているところを私は見たことがない。私はサークルに少しでも馴染んでいくために、できるだけ吉村さんのそばにいるよう心がけ、Yさんのことは特にどうでもよかった。それなのに私とYさんが仲良くなったのは、住んでいる市が同じだったからで、その市とは大学の駅からは下り方向にあったのだが、私とYさん以外はみんな上り方向だった。必然的に私とYさんは話をする必要があったので仲良くなった。