意味を喪う

「意味をあたえる」のfktack( http://fktack.hatenablog.jp/ )の小説です。不定期に更新します。

余生(61)

※前回

余生(60) - 余生

 

 

 私と部長は大学を卒業してからも、こうしてたまに会って、酒を飲みながら話をする関係を続けた。それは10年以上に及ぶが、その間に部長は3回、私は4回職を変えた。部長は今は都内に住み、都内の会社に勤めていた。営業職であるが、ルート営業なので、給料はあまり良くないと言っている。

 私たちはゴールデンウィークだったので、とりあえず駅を出てすぐの角地にある焼き鳥屋に入った。とても混雑していたので2階席に案内された。階段がとても急だった。テーブルの上にはメニュー表がなく、2人とも生ビールでいいので、私はとりあえず生ビールだけ注文しようと思い、店員のところへ出向いたが、姿が見えないので1階に降りなければならなかった。やがてビールを頼む際にメニューをゲットして焼き鳥を頼み、少ししてから焼き鳥も運ばれてきた。

 私たちの隣の席には若い恋人同士のような男女が座っており、2人とも部屋の中があついあついと、手のひらを団扇にして顔をあおいでいた。私はもともと寒がりであるから、あまり暑さは感じなかったが、窓も閉め切られ、2階の畳は十分に日光を吸い込んだであろうから、少しは暑いのだろうと推測した。畳は日に焼けて変色していた。

 私たちが焼き鳥を食べていると、そのうちに部長はモツ煮が食べたいと言い出して、注文をした。その後もメニューを見続けているので、私は部長には今、恋人がいるのかいないのかについて考える時間ができた。と言うのも部長は女にとてもモテるが、しかし本人はそれを喜んではおらず、付き合っても2、3ヶ月で別れてしまう。付き合い始めたり、別れたりする度に私のところへメールが送られてくるが、最近では私はいちいち返信するのも億劫になり、だいたい3回に1回しか返信しなくなった。だから、私は部長が今女と付き合っているのかどうか、はっきりとはわからなかった。

 しかしながら、ひと月ほど前に、「婚活終結宣言」が私の元へ届いた。部長は私よりもずっと結婚願望が強く、そのせいで潔癖なところがあり、女性と付き合っても長続きしないのではないかと、私は分析していた。