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意味を喪う

「意味をあたえる」のfktack( http://fktack.hatenablog.jp/ )の小説です。不定期に更新します。

意味を喪う(7)

意味を喪う

私と敦子はその後駐車場でおしゃべりをした。駐車場は建物の真下にあったので、全体が薄暗かった。午後四時頃である。敦子は白いマフラーを巻き、茶色いコートを羽織り、赤色の手袋をつけた。また忘れたが、季節は冬だったっけ? 読み返さなくてごめんなさい。しかし少しは読み返した。敦子、と打つときに淳子とならないように注意しながら書いていたことを思い出した。淳子では高畑淳子を思い出してしまうからである。あれから少しして、彼女の息子が捕まった。私は岐阜でそれを知った。家族旅行をしていた。
「岐阜と埼玉ってどちらが暑いの?」
と敦子が訊いた。
「わからない、でも今年は比較的涼しかった」
「今年っていつ?」
「いつでもない」
駐車場は斜面にあった。坂を登って私たちは来た。私は白いスプリンターというセダンに乗って、敦子はシルバーのホンダライフに乗ってやってきた。ライフは軽自動車なので、坂ではアクセルを踏み込まなければならなかった。うおーん。淳子のフロントバンパーは左側が割れていたが、前向きに駐車していたため私からは見えなかった。
「前向き駐車にご協力ください」
コンクリートの柱に、そう張り紙がしてあった。天井は赤色の鉄骨がむき出しだった。駐車場の向こうは山の土塊だった。杉の木がまばらに生えていた。バックファイヤーで火事になるから前向きなのか。私は「前向き駐車」の張り紙が、きちんと守られているのを見たことがない。薬局とかだと後ろ向きのほうが停めやすいからだ。しかしその駐車場ではみんな前向きに停める。「その」とはラブホテルである。私はその真上で、敦子に向けて二度射精をした。何度でも射精OK、が店のウリだった。私は座標について考えた。時間軸と地軸を少しずらせば、射精のポイントと重なる。

あまり広い駐車場ではなかった。白線は屋根のないところにも引かれていた。そっちには黒色の柵があった。柵の向こうに背の高い草が生え、もっと向こうは高速道路だった。私と敦子は反対方向に車を停め、他の車も反対やそうでない方向に停められていた。高級なのもそうでないのもあった。何台かは、ホテル側で用意された板をナンバープレートの前に置き、ナンバーが読まれないよう工夫した。私はそういうのはホテル側のサービスかと思っていたが、私の車には置いていないから、あれは自分で置くのだ。使い古されたベニヤ板である。板のささくれが指に刺さったら気持ちが大変萎えるだろう。行為の前だとしたら、前戯に影響が出てしまう。

敦子は私が黙っているから暇になったので、バッグからコンドームを取り出して袋を破り、私の車の隣の車の排気口にそれをはめた。それは黒いセダンで、確かに排気口の太さは陰茎と同じくらいなので、敦子は手際よくするするとコンドームをはめた。しゃがんだ際に茶色いコートの裾がコンクリートの地面につき、脇からブルーのスカートが見えた。敦子は色の博物館のような格好をしていた。
「これ、元彼の車なんだよ」
と教えてくれた。嘘だ、と私は思った。それはカズヤの車に似ていたが、ナンバーが例の板で隠れていたから確信は持てなかった。私はカズヤとはもう会っていなかった。カズヤと敦子が付き合っていたなんて知らなかった。カズヤは私と同じクラスだったから、敦子とはクラスが違っていた。高校に行ってから付き合ったのかもしれない。私はカズヤも敦子もどこの高校に行ったのか知らない。カズヤは私立だと風の噂に聞いたことがある。カズヤの家は金持ちだった。家は農家で、大変広い玄関の家に住んでいた。代々その土地に住んでいるから親戚も多く、お正月にはお年玉を8万円ももらっていた。私は調子の良い年でも4万がせいぜいだった。敦子はもっと少ない。親戚の数は少なくなかったが、相対的に私たちの家より貧乏だった。パーマ屋も大して儲からなかった。隣の釣具屋は早々に店を畳んだ。私はカズヤと昔、そこにミミズを持って行ったことがある。店主やミミズを渡すと、100円くれた。餌になるからである。私の家やカズヤの土地には土が多かったからミミズが簡単に見つかった。それをアーモンドフィッシュの食べ終わった円形の容器にびっしり入れ、それがいっぱいになると100円になった。容器は厚手のプラスチックであった。私はそのことをカズヤに教わり、その後二人で一生懸命土をほじくり返した。カズヤの家の畑と、私の家の畑のときがあった。しかし私の家は分家だったので畑は狭かった。そこで本家の畑にも赴き、そこの裏の畑でもミミズを穫った。裏の畑の隣には農協の建物があり、その前の道を行くと敦子の家があった。農協の建物は外に階段がついていて、建物に入らなくても屋上まで行くことができた。私とカズヤはミミズのみとれない冬などはその屋上に忍び込んだりした。その建物は昼間でも人はいなかった。保険などを扱っていた。

私たちはミミズで得た金でジュースを買って飲んだ。炭酸を素早く飲むと脇腹が痛くなった。カズヤはいつも半分ほど飲むと、駄菓子屋の植木に中身をあけた。私たちは駄菓子屋でジュースを買った。駄菓子屋の前のコンクリートも若干の勾配がついていた。駄菓子屋にしろラブホテルにしろ、いくらかの勾配はついていた。私たちは山に住んでいた。