意味を喪う

「意味をあたえる」のfktack( http://fktack.hatenablog.jp/ )の小説です。不定期に更新します。

意味を喪う(2)

私が五歳か六歳のとき、祖母が私にお話のカセットをプレゼントしてくれた。そのときは祖母の妹も一緒で、いつも二人はセットでやってきた。祖父はまだ生きていたが、私の家にやってくることは滅多になかった。祖父は家で本ばかり読んでいた。本を読まないときはテレビを見ていた。アメフトの試合を見ていた。アメフトは祖父のテレビ以外では見たことがない。テレビの上には赤べこが置いてあった。赤べこはアメフトなど知らない。

部屋の隅にとても背の高い扇風機が置いてあった。それは夏になると台所に出して実際に風を送った。あるいは私が小さかっただけの話かもしれない。私はそれを見るとわくわくした。祖父母の家に来ること自体滅多にないイベントだったので、扇風機がなくても私はわくわくした。それは私の妹と弟も同じであった。対して私の父は、父からしたら義理の父親なのであまりわくわくしなかった。父の実家は埼玉にあり、そこにも仏壇はあった。仏壇は家のいちばん奥の、日当たりの悪い部屋にあり、父は私たちが家に訪れる度に、線香をあげるよう指示した。廊下の途中にトイレがあり、突き当たりに流しがあった。縦向きの楕円の鏡がかけられており、私はそこに自分の顔を写したことはない。壁がよく崩れた。右の座敷に仏壇があり弟が生まれるとき、私と妹はその部屋に寝泊まりした。妹は弟よりも三歳上で、私よりも祖父母の家に馴染んでいた。なぜなら私は小児喘息をわずらって入退院を繰り返し、その度に妹は祖父母の家に預けられたからだ。

祖母は八年前に死に、祖父は二十年以上前だ。祖父は事故で死んだ。

それを私は自身のブログに書いたことがある。ブログは「意味を喪う」という。