余生(55)
※前回
Dは、私よりも9歳下の女であるが、私と同じ年に入社していた。話す機会はほとんどなかったが、1度だけ本社で行われた新入社員研修で一緒になったときがあり、その時は頻繁に会話をした。Dは細身で髪は短く、いつも黒のパンツを着用していた。営業所のルールで、女性社員はスカートの着用を禁止されていたからである。Dの実家は長野県にあり、大学がこちらだったから、就職もそのまま決めたらしい。その大学とは私の住んでいる市内にあった。私は研修中、研修とは月曜から金曜まで1週間行われ、私たちは休み時間や駅までの帰り道に会話をしたので、水曜日には冗談を言い合うくらいになった。駅まではいくらか距離があり、途中にはたくさんの木が植えられた公園があって中にはジョギングコースが見えた。その先には川が流れていて、コンクリートの橋を渡ってからようやく地下鉄の入り口が見える、といった具合だった。景色が開けた場所では、建設中のスカイツリーがよく見えた。私がジョギングコースを眺めながら、その頃の私は1日およそ5キロ走っていたので、そのことをDに言うと
「すごいですね」
と褒めてくれた。
ところで私が研修に行く前の週、私の先輩の阪本さんが
「うまく行けばDさんとやっちゃおうと思ってんじゃない?」
と言ってきた。その当時はまだH・Kくんが入社してくる前の話で、その頃は部署内でもこう言った話題がよく出た。H・Kくんはあまり下ネタを言わないので、彼が来てからはあまりそういう話はされなくなった。私は
「そうですね、チャンスがあれば飲みにでも誘いますか」
と話を合わせ、実際私は1週間も都内に通うのであれば、最後の日などは打ち上げ的なことをやるべきだろうと思っていた。私が組合に勤めていた頃は、たとえ日帰りの出張でも、帰りに居酒屋の1軒2軒は寄るのが当たり前だった。しかし当時の私でもそれがスタンダードだと思っていたわけではなかった。
私はDに対して、それ以上の行為を期待したわけではなく、単にメールアドレスをゲットして、たまに飲みに行けるくらいの間柄になれれば良しと思っていた。
「でも、女と2人で飲みに行ったら、俺ならそのままホテル行っちゃうね。向こうもOKってことでしょ?」
私はさすがにそれは強引すぎやしないかと思ったが、阪本さんは今までそうしてきたと言った。