意味を喪う

「意味をあたえる」のfktack( http://fktack.hatenablog.jp/ )の小説です。不定期に更新します。

余生(7)

※前回

余生(6) - 余生

 

「本当ですって、なんも聞いてないです」

 私は少し笑いながら、冗談っぽく言ってみた。しかし疑われて心外だという風も伝えたくて、最後まではっきりした口調で伝えた。そうしたら口の中が急に痛くなった。それは3日前に歯医者へ行ったからで、私は虫歯はなかったが、半年に一度の定期健診のハガキが届いたので歯医者へ行き、そうしたら受付の女の子が以前と変わっていて、もう女の子ではなかった。品のある眼鏡をかけたショートカットの中年だったので、国語の先生のように見えた。以前は若い女の子で、その女の子は可愛かったが歯並びが悪く、私はそれがいつも不思議だった。床屋が不潔なダサいヘアスタイルにするのと同じことなのかと、帰りの車で考えたりした。床屋は、自分の髪を切ることができないので、腕のいい床屋ほど下手くそな髪型をしていると、以前聞いたことがあったからだ。しかし彼女は歯医者であり、しかもただの受付なのだからこのことは全く関係ないだろう。私の家は歯医者のすぐそばにあった。

 定期健診では、歯周病になりかけていると言われ、麻酔をして歯周ポケットの汚れを掻き出してもらった。歯医者はかなり力任せに私の歯茎をほじくった。そのときの麻酔の注射のあとが膿んでしまい、口内炎となって、今、語気を強めたら痛み出した。私は一層険しい顔つきになった。