余生(8)
※前回
オカダさんは無言の威圧で、私が観念するのを待っているようだったが、次の瞬間銃声が鳴って、オカダさんは背中から撃たれ、私の方へ倒れかかってきた。私は反射的に身をそらし、オカダさんの死体は畳に上に倒れた。流れ出た血が畳に染み込んだ。私は一瞬何が起きたのか理解できなかったが、咄嗟に身をかがめて頭をおさえながら広間の奥の方へ目をやると、そこにはお座敷用の長机がコの字に並べられ、オカダさん以外の区長が4人と、評議委員の人が5人いた。私の住んでいるK地区は町内が5つに分かれていて、それぞれに区長を選出することになっている。任期は2年である。区長の前の2年間は、評議委員という役職について、区長を補佐する。
私は奥の9名の役員に向かって、
「お疲れ様です」
と大きな声を出して挨拶をしてみた。もう口の中は痛くなかったが、代わりに私の声がどこか変だった。大きな銃声を耳にして、鼓膜が少ししびれてしまったようだ。するとコの字の真ん中にいた代表区長のキクチさん(K地区南選出)が、
「ご苦労様」
と返してくれた。キクチさんはオカダさんを撃った銃を持っていたから、私は自分も撃たれるんじゃないかと警戒していたが、口調が穏やかだったので、以下のように考えて警戒を解いた。
つまりオカダさんは私が聞いたと思い込んでいる話の内容を知りたがったが、確かにそれは部外者に聞かれてはマズい内容だったが、肝心の部分について理解されていないのなら、さして害はなかった。だから無理に聞いた内容を問いただすよりも、優しく声をかけて警戒を解き、それとなく確認すれば良かったのだ。それなのにオカダさんは先走ってしまい、かえって私の警戒感を強めてしまった。オカダさんが殺されたのはそのことに対するペナルティなのだ。一方私はそうであれば、とりあえず私が撃たれることはないし、この先ひどい目にあうリスクも少ないだろう。なぜなら私は、そもそもの話すら何も聞いていないのだから……。