意味を喪う

「意味をあたえる」のfktack( http://fktack.hatenablog.jp/ )の小説です。不定期に更新します。

余生(9)

※前回

余生(8) - 余生

 

 とりあえず私は区長の方へ行こうと思ったが、オカダさんの血が靴下についてしまわないように、注意深くオカダさんの死体をまたいだ。そこで私は、うっかり5本指ソックスを履いてきてしまったことに気づいた。5本指ソックスは私の中では仕事用と決まっており、プライベートでは履かない。以前5本指ソックスを履いて母親に「おっさん臭い」と笑われてからは、ますます履かなくなった。仕事では長靴を履くときもあり、長靴はぶかぶかなので、以前は普通の靴下を履いていたが、長靴の中で脱げてしまうことが度々あって、私は大変不快な思いをしていた。そうしたらある日後輩のH・K君が、ワークマンに売っている5本指ソックスがいいですよと教えてくれた。これは何がいいのかと言えば、5本指であることに加え、土踏まずの部分にアーチがあってゴムが引き締めてあるので脱げにくく、さらには疲れにくいというのである。H・K君は元はスポーツ量販店に契約社員として勤めていて、そういうスポーツウェアに関してはとても詳しく、また、接客業をやっていたのでこういう話し方もとてもうまかった。話を聞いて私は一気にその5本指ソックスが欲しくなり、幸い私の帰り道にはワークマンがあったので、私は早速帰り道にそこへ寄って購入しようかと思ったが、帰り道にiPhoneをカーステレオにつないで音楽を聴いていると、私はついつい音楽に夢中になって、寄るのを忘れてしまう。H・Kくんいわく、土踏まずにアーチがついているソックスをスポーツショップで買おうとすると、一足で1000円以上するそうだ。そして、私はそれをやがて購入するのだが、そこまで勧めてきたH・Kくんも、とうぜんそのソックスを履いて仕事をしていて、それはH・Kくんの説明が嘘ではないという証明になるのだが、私はH・Kくんとお揃いになってしまうことに、どこか抵抗があった。そこで靴下コーナー漁って他のを探してみるが、土踏まずにアーチがついている靴下はこれ以外なかった。私は、H・Kくんは、だからこそ勧めてきたのではないかと疑った。