余生(39)
※前回
リビングには教師が2人おり、1人は自衛隊だった。もう1人は見たことのない、初老の女性教師であった。テーブルに置かれたコップの麦茶の残量から推測すると、2人が来てからそれなりの時間が経ったようだ。軽い冗談を言い合うような、和やかな雰囲気の中、志津の表情にも今朝見た時のような思いつめた様子はなく、鴨居の上でとりあえず挨拶をした私は、その後どう話に入っていいのかわからず、とりあえずドアのすぐ脇の、絨毯が途切れた床の部分に正座をした。麦茶の置かれたテーブルには、確か朝まではコタツの布団がかけられていた筈だが、今はどこかへ片付けられていた。今まで話の邪魔ばかりしていたネモちゃんが、無言で私の方へやってきて、膝の上に腰掛けた。
「話を聞いてみたら、ちょっとした気持ちのすれ違い? て言うんですかね、お互いに誤解してしまったところがあるようです。だから、明日2人で話をさせてみようかなって思ってます。もちろんわたしも立ち会いますが」
私は昼間仕事をしながら、志津のいじめについてどんどん想像がエスカレートし、今やクラス中の男女から無視をされているとか、給食に粘土を入れられたとか、考え、やはり今日学校を休ませたのは正解だと考えていた。ところが担任の口からはいじめのいの字も出てこなかったので、私は拍子抜けしてしまった。同行の女教師(国語担当)が
「入学したばかりだと、こういうことはよくあるんですよ」
と追い打ちをかけ、いよいよ志津の一件は相対化されてしまった。私のほうも
「入学したばかりのころは、もう楽しくてしょうがないって感じだったんですけどね。それがここ2、3日で急に行きたくないってなっちゃって、もうどうしていいのかって感じで」
と、わざと頼りない風を装った。後から妻に笑われたが、私の言った内容は、その少し前に義父が言ったことのそのままだったらしい。朝までは、志津は腹痛で休んでいると聞かされていたくせに、なんの臆面もなく話に割り込む義父が腹立たしかった。
翌日には志津と当事者で話し合いが行われて無事解決し、その後は家での話題にも上がらなくなった。