意味を喪う

「意味をあたえる」のfktack( http://fktack.hatenablog.jp/ )の小説です。不定期に更新します。

余生(53)

※前回

余生(52) - 余生

 

 ノグチはせっかちで早とちりをする性格であったが、小気味がよく熱心であるので、私たちは事務所で上司に

「社員にすることはできないのか?」

 と度々相談をした。私たちの会社は少し前に社長が代替わりをし、若い社長になったせいか、とにかく効率良く利益を上げることをスローガンとし、私の部署も商品の在庫を減らすために、人を増やすことになった。そこで派遣をとることになったのだが、派遣社員では、社内のシステムにログインできないため、できる仕事が限られてしまうのである。しかし、派遣でもアカウントを申請して入ることは可能だと、前に聞いたことがあったので上司に聞いてみると、確かにできるが、他の事業所でやっているところはないので、やはりできないのだ、と言われた。

 上司は最初の段階では

「派遣の期間が過ぎて、特に問題なければ社員にする」

 と私たち説明をしたが、派遣契約の3ヶ月が過ぎるまでに、雲行きが怪しくなり、いつのまにか社員登用の話は誰もしなくなり、ノグチは派遣社員のまま契約を更新した。どうやら営業所の部長や本社の連中は、営業所の余剰人員を私の部署へ押し込みたいと思っているようだ。私たちは当然他から追い出された中古の社員なんか嫌だったが、それはターゲットにされた社員の方も同じで、一向に人がやってくる気配はなかった。
 私たちはそのターゲットについて、作業の合間やトラックが来るまでの空き時間に、誰が来るのかを冗談を交えながら予想をしたりした。お昼ご飯を食べているときは、上司も同室で食べているのでしなかった。話が盛り上がって上司がうっかり口を滑らせたら気の毒だと思ったからである。上司は私が質問したときには

「俺も知らない」

 と答えたが、私はそれをそのまま信用する性格ではなかった。しかし、上司は本当に知らないのかもしれない。何故なら上司はこの春に、課長から係長へ降格したからである。かと言って代わりの課長が来るわけでもなく、仕事環境にはなんの変化もなかった。しかし給料は1万円以上下がったのではないかと、別の人に教えてもらった。